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私の極私的「三谷幸喜」論


コンスタントに、映画やドラマ脚本を作り続けられる凄さに敬服する。

爆笑問題の太田氏が、日大の先輩の「三谷幸喜には敵わない」と言ってたのを覚えている。

私は舞台はあまり見ないし、三谷幸喜をさんを最初に認識したのは、やっぱり…『やっぱり猫が好き』だと思う。

かなりヘンテコなドラマだった。

伝説的恩田三姉妹と猫の住むマンションのシチュエーション喜劇。

お得意の舞台劇っぽい設定。

ほとんどが、このマンションだけでの話だった気がする。

台本があるのか無いのか、アドリブ(に見える)だらけの会話劇。

調べると三谷さんは途中参加みたいだが、私は三谷幸喜作品という認識しかない。

もたいまさこ、室井滋、そして小林聡美の三姉妹の会話劇。

セリフを間違えてもドラマはそのまま進行する。

姉妹の誰かが設定と違う「恩田です」と間違えたセリフを言う。

で、そのまま彼女たちは「恩田家」設定になる。

こんなゆるい作りでも成り立つ不思議。

脚本が優れているのか、女優たちの力量が凄いのか。


私は後年、北陸電力の三姉妹で住む家の「オール電化三姉妹」シリーズCMを作る。

雪国、金沢の「FIX」という映像制作会社だった。
「猫が好き三姉妹」を意識せざるおえない。

地域柄だが電気で屋根融雪するシステムや、i h調理器での料理や、電化されたお風呂、一番風呂に誰が入るかなど三人姉妹での30秒寸劇を作った。

『…猫が好き』より若いけど。18〜24歳の三人姉妹コメディCM。

全国放送だとしたら、こんな自由には作らせて貰えない。
「このまま10分くらいの、シリーズ帯番組を作らせてくれないかな」と思いながら作っていた。

この「電化三姉妹」作品がきっかけで、同じ金沢で、水沢螢主演の美和ロックのバリアフリーシリーズCMに繋がったと思っている。

高齢者住宅リフォームを巡る「嫁姑のバトル」コメディ。

これも全国放送では絶対作れない金沢関西エリア独特のおかしなCM。

地域の方、ましてやそんなCMを覚えておられる方にしか分からない話で申し訳ない。

こんな極「私的」な理由で、『やっぱり猫が好き』は印象深い。


さらに『3番テーブルの客』は、それ以上にヘンテコだった。

レストランを舞台にしたコメディが確か23話。

でも、その23話が全部、同じストーリーなのだ。

つまり同じ脚本のドラマが毎週流れる。

分かりにくいので、もう一度言うけど。

三谷幸喜の同じ脚本ドラマを、23人の別の監督が作る。

つまり、監督と俳優だけが違う、同じドラマが23回、毎週流れる。

これは、あり得ない。

毎週見ている視聴者(私)は、同じストーリーを見る事になる。

だから、それぞれの監督の力量やセンス、俳優の選び方、はっきり言えば監督の優劣が分かる。

ウィキペディアで調べると、スゴイ監督たちが並んでいるので驚くと思う。

この番組の企画者と三谷幸喜の「イタズラ」としか思えない番組だった。

簡単なプロットを説明する。

売れない歌手だった男(例えば西村雅彦)が、夢をあきらめ、とある劇場(帝国劇場くらいの)近くのレストランでウェイターとして働いている。

そこに女性客が入ってくる。

レストランの3番テーブルに座った女性客を見て驚く西村。

その女はかつて、同じ様に歌手を目指し、売れない西村雅彦を支えてくれた元妻だった。

西村雅彦は、ウェイターをしてる自分を知られたく無い。
汗かきながら誤魔化す言葉を探す。

ウエイター制服の黒いタキシードを着ている西村。

「今、近くの劇場でやってるコンサートの、今バンドマスターをやってて、出番までこの喫茶店で時間を潰してる」と、元妻に嘘をつく。

実はこの元妻、そばの劇場で単独コンサートを開いている大歌手になっていたのだ。

他の店員や、客たちとの、ダメさ加減が分かる男の寸劇。

そこから始まる同じコメディが23回、毎週ある。

昔、テレビは「実験が出来るメディア」だったのだろうか。

かなり刺激的な番組作りだった。

比べて、現在の新聞ラテ欄はどこの局も同じ。

お笑い芸人でのお散歩やグルメや、ドッキリ企画、クイズ番組ばかり作っている。

びっしりのラテ欄、番組ごとにカッターと定規でバラして、パズルにする。

元の場所に修復できるテレビマンは、ひとりもいないだろう。


『3番テーブルの客』のプロットで、三谷幸喜ファンは気付かれたかも。

この設定をホテルに替え、役所広司で映画化しているのが『THE有頂天ホテル』だ。


三谷さんは、たくさん映画を作られている。

最近も『スオミの話をしよう』がテレビで話題として取り上げられてるが、私は未見。

と言うか、私はしばらく三谷映画を見ていない。

たぶん誰も同意見だろうけど、映画では『ラヂオの時間』が一番面白い。

役者たちのワガママで、生放送のラジオドラマのストーリーがどんどん変わっていく映画。

今はもうほぼ無くなっている生放送ラジオドラマが、殺人事件などの犯罪も起きないのに、こんな良質のサスペンス映画になるとは。

役者を想定して台本を書く「当て書き」が生きている。

その後、何本か映画を見たが「ラヂオの時間」を超える物は無かった。


『鎌倉殿の13人』は面白かった。

大河ドラマは大抵スルーしているが、三谷幸喜だし小栗旬だし。

小栗旬は、ハリウッドゴジラは残念だったが、割と気に入っている役者さん。

『クライシス』『ボーダー』と金城一紀作品での刑事役は印象深い。

『日本沈没』は、まあ、残念作だが。

佐々木史朗さんプロデュースの『キツツキと雨』や、役作りが普通じゃない『ルパン三世』をよく自分のものにしてると感心した。

でも『ルパン三世』、肝心の映画自体は駄作だった。

マイケル・ケィンのではなく、シャーリーズ・セロンが出てた方の新作『ミニミニ大作戦』やショーン・コネリーが美術品泥棒を演じた『エントラップメント』などのシーンを、パクりまくった凡庸な作品。
同じ泥棒ジャンルで、同じ仕掛けって。
この監督さん、誰も気づかないと思ってるのだろうか。

こんな輩、いい加減な監督が多すぎる。
同じ監督の上戸彩『あずみ 1』も酷かった。

誤解されたくないので記すが『あずみ 2』の金子修介監督は、とても上手い。
彼の『ガメラ』シリーズとか、驚くほどだ。
『香港パラダイス』も、特筆モノ!


話が逸れた。

『鎌倉殿…』は、源頼朝を祭り上げて執権政治を始めた悪徳北条家だし、歴史劇としてどうまとめるのか興味深かった。

案の定、大河ドラマなのに、ダークサイドに落ちる北条義時の話だった。

宮沢りえの北条妻「リク」、どう見てもシェークスピアの『マクベス』夫人を被せている。

北条義時が頼朝の毒殺に関与した事とか、さりげなく描写していて面白かった。

大河らしく無い作り方が新鮮だった。

『古畑任三郎』は、別ページ『探偵はテレビにいる』で分析しているので、そちらへ。


ニュースショーでコメンテーターしている三谷幸喜の顔を見直す。

何を考えているか、分からない目付きが怪しい。

そろそろ、おもしろい作品をお願いします。



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