映画「キノ・ライカ 小さな町の映画館」
directed by Veljko Vidak
starring : Aki Kaurismak, Mika Latti, Jim Jarmusch, Anna Karjalainen
北欧フィンランドの鉄鋼の町、カルッキラ。深い森と湖、今は使われなくなった鋳物工場しかなかった人口9000人の小さな町に、はじめての映画館「キノ・ライカ」がまもなく誕生する。元工場の一角で、自らの手で釘を打ち、椅子を取り付け、スクリーンを張るのは、この町で生まれ育った、世界的映画監督のアキ・カウリスマキと仲間たち。
住人たちは、町に映画館ができることへの喜びを語り、口々に映画について話し出す。ワインバーや川沿いのテラスを併設し、映画だけでなく、町の人が集まって文化的な催しを気軽に楽しめるような施設としての役割について、アキ・カウリスマキだけでなく、盟友ジム・ジャームッシュもとっておきの催しについて話をする。
実はこの映画を観る前に、前に触れた「This Magic Moment:ディス・マジック・モーメント」を観たわけです。
この順序の二本立てに、大きな意味があったと・・・思わず唸りました。
「This Magic Moment」では、日本各地のミニシアターの館長さんたちが、口々に、特にコロナ禍以降の苦境について語っていた。年配層の・・・つまり、ずっと「映画館で映画を観る」ことの楽しみを享受していた年齢層の人たちが、新型コロナの流行によって、映画館に足を運べなくなった・・・と。コロナ禍の2年~4年の間に、すっかり「配信」「リモート」に馴染んだ若者は、配信で見て「映画を見た」気になってる・・・飛ばしてみたり、見落としたところは簡単に戻してみる、それが、「映画をみる」になっている・・・と嘆いていた。
「キノ・ライカ」の冒頭、「これ、いったい、何十年前の話?」と思えたほど、古い古い、旧態然とした鋳物工場の光景が映されていて、人々の生活も、あまり「現代的」とは思えない・・・途中まで「あれ? これ、両親の話とか、アキ・カウリスマキ監督の回想録だったっけ??」と勘違いしそうになるほどだった。
さらに、冒頭に流れてきた曲は・・・あれ? 日本語の歌だよ??
そういえば、昨年の同じ頃にアキ・カウリスマキ監督の「枯れ葉」で、竹田の子守唄が流れてたけど・・・歌っているのは篠原敏武さん、フィンランド在住で、アキ・カウリスマキ監督のご近所住まいなんだそうな。
そういえば、この人の「雪の降る町を」も、アキ・カウリスマキ監督作品のエンディングだったっけ?
スマホとか出てきて、アキ・カウリスマキ監督自身も出てきて、ああ、予告にあったように、最近の話だよな~って、「ほっ」としたほどだ。
そして、町の人たちが「映画館ができるんだって、工場跡に」って話題に「そりゃよかった。仕事帰りに映画館に行ける!文化的になるよね」って喜んでいること。
なんかほっぺたを殴られたような気分になった。
住んでいる町に映画館があることの価値・・・日本でどれだけの人がそのことを「文化的なこと」として捉えているだろうか・・・
こつこつと人が手作業で、映画館を作っていく。壁を塗り直し、床板を張り、階段席を組み立て、座席を整え、スクリーンを張って・・・
「人々が集って、ワインや食事を楽しみ、映画を見て、語り合う・・・そんな憩いの時間を作り出す・・・「文化的な役割」として、映画館がある。
ミニシアターが町にある・・・それは「文化的な場所が町にある」ことなんだ・・・
そこで、ジム・ジャームッシュがコンサートを行うなんって!
小さな町だけど、そういう場を作ったという、なんか、映画館の「光」を見続けるような、そんな、温かな、でも、眩しい光・・・映画を観るって、それは「光の明滅を見てる」って映写技師さんが言ってた言葉にあったけど・・・大袈裟にいえば「文化の光」なんだろう。
それを、小さな町の人々は皆実感してる・・・なんかすごく豊かで羨ましい光景だった。