映画「PERFECT DAYS」
※昨年末に鑑賞した映画のレビューです
directed by Wim Wenders
starring :Koji Yakusho(役所広司)、Tokio Emoto(柄本時生)、Yumi Aso(麻生祐未)、Sayuri Ishikawa(石川さゆり)、Min Tanaka(田中泯)、Tomokazu Miura(三浦友和)
平山(役所広司)はトイレ清掃員をしながら過ごす日々に満足している。毎日の暮らしに同じ日はなく、昔から聞き続けた音楽、しかもカセットテープで聴くことにこだわり、耳を傾け、休日に買う古本に読み耽ることに喜びを感じていた。小さなフィルムカメラで木と合間から感じる木漏れ日を撮ることが好きな彼はある日、思いがけない再会をして……
朝、まだ夜が明け切らない時間に、通りを誰かが竹箒ではく音で目覚め、自宅の机の上にもうけた小さな森(大木の横に芽を出した小さな木をそっと持ち帰って、小さな植木鉢がわりの湯呑みで育てている)に霧吹きで水をかけ、歯を磨いて、家を出たところの自動販売機で缶コーヒーを一個買って、仕事用の車に乗り、カセットテープで好きな音楽をかける。この一発目が「朝日の当たる家」。そこに朝日がさっと差し込んでくる。
ああ、この曲、久しぶりに聴いた、懐かしい! まずここでじわっと涙腺にきました。この一連の行動が、平山の日常で、たぶん昨日までも同じことをやっていて、明日からも同じことを繰り返すんだけど、それで十分、この人は楽しんでいるんだなぁって。
続いて行われていく「公衆トイレ掃除」も、一連の所作・・・が、まるで「剣道」とか「茶道」とかの所作そのものな感じなんですよ。
このトイレが、ありきたりのトイレじゃないんですね、「TOKYO TOILET」というプロジェクトがあって、名だたる建築家が設計したトイレ、映画に登場したトイレも、後から「あれは・・・」と気になって調べたら、安藤忠雄、隈研吾、伊藤豊雄、坂茂という名前が・・・
そりゃ綺麗に保ちたいって気持ちになると思う。平山はそれを毎日毎日、まるで修行をこなすように決まった手順で清掃していく。
昼は、気に入ってる場所でサンドイッチをほおばる。たまに見かけるホームレスの男性(田中泯)が踊る姿を目にして、微笑む。
帰りは銭湯に行き、汗を流し、決まった居酒屋でちょっと一杯飲むのが楽しみ・・・夜は一冊の文庫本を読んで眠たくなったら電気を消して寝る・・・
たまにちょっとお気に入りの小料理屋で歌の上手いママさんの美声にいい気分になる・・・たぶん、ママさんのことはほのかに想ってるんだなぁってのはわかるね。
このママさんが、石川さゆり・・・日本語歌詞で「朝日の当たる家」を歌うんだけど、絶品!!
平山自身にきっとかなり複雑な経緯があって、こういう「世捨て人」みたいな生活をしてるんだろうなってのはなんとなく想像はつく。
ある日突然現れた姪っ子との会話や、妹との会話から、きっと家を継ぐ、継がないとかで揉めて、かなり父親との確執があったんじゃないか・・・ってのが窺える。
「今度は今度、今は今」と繰り返した言葉の中に何重にも折り畳まれた過去があるんだろうな。
対照的に、日々を刹那的に、ある意味、いい加減に・・・今風の若者として、タカシ(絵本時生)が絡んでくるんだけど、文句を言うわけでもなく、怒るわけでもなく、受け流している体の平山。この二人がとても対照的でした。
気がつけば、言葉数が少ない、毎日毎日決まったルーティンをこなす平山だけど、そこにあるのは「毎日同じことをしていても、実は一日、一日、違っていて、だからこそ愛おしい」という、白黒の揺れ動く「木漏れ日」の映像が何回も挟まれるにつれ、こんな人は、きっと世界中に何人も何人もいて、その人たちが集まって「社会」になってるんだろうなって思えてくる。目の前に広がってる普通の日常がとても美しくて愛おしいもので、そういう中にいて一人幸せを感じる・・・ああ、豊かな生き方だなぁと思う。
時に、ポン!と 異物のように突然の陳入者の存在もあったり・・・
三浦友和と役所広司さんのやりとりは、お互い、その人物として生きてきた過去までも本物になっていて、一期一会を愛おしむという時間を味合わせてもらいました。
動きが本当に少ないし、ほとんどセリフがない展開・・・飽きちゃうよ・・・って人も多いかもしれないけど、ああ、小津安二郎さんのテイストだよなぁとしみじみと感じたりもしました。
しかし、役所広司さんの存在って・・・こんな人物なかなかいない・・・っていうカリスマ性、そして重厚な演技から、こういう、普通にその場にいる目立たない人物も「演技」で見せることができる・・・改めてすごいなぁと感心しかり・・・です。