映画「52ヘルツのクジラたち」
directed by 成島出
starring :杉咲花、志尊淳、宮沢氷魚、小野花梨 、桑名桃李、金子大地、西野七瀬、真飛聖、余貴美子、倍賞美津子
大切な人を失ったという喪失感を抱えて東京から、祖母がかつて住んでいた海辺の一軒家に移ってきた貴湖(杉咲花)は、虐待され声を出せなくなった「ムシ」と呼ばれている少年(桑名桃李)と出会う。貴湖自身もかつて親の虐待に苦しんでいたことから、彼を放ってはおけず、一緒に暮らすようになる。母親との確執・依存に苦しんでいた貴湖は、中学時代の友人だった美晴(小野花梨)と岡田安吾(志尊淳)と出会い、母との離脱を決意する。次第に想いを寄せ合う安吾と貴湖。安吾はある音声を貴湖に聞かせる。それは海中録音で、とても高い音を出す鯨の声だった。「52ヘルツのクジラと呼ばれていて、仲間には高過ぎて聞こえない音しか出せない・・・どんなに声を出しても仲間には聞こえない、孤独なクジラ」と。
安吾は貴湖にもあかせない秘密に苦しんでいた・・・その後、貴湖は働いていた会社の社長の息子、新名主税(宮沢氷魚)と知り合い、恋に落ちて同棲まで進んでいくが、実は主税にはもう一つの顔があり、それを見抜いていた安吾は貴湖のことを思ってある行動に出るが、それが思わぬ悲劇を産んでしまう。
最近注目している杉咲花さん・・・強い眼差しと、かなり振り切って、なおかつ「脱力」的な・・・というか、「熱が入ってない、冷めたって思えるけど、かなり熱い演技」が魅力的で、最近立て続けに映画出演されてるし、気になってる女優さん。
ただね、私てきには、「すごいんだけど、身近にいたらイラつくだろうな」って感じであまりお友達にもちたくないタイプの女性・・・ではあるけれど。
祖母の家に戻ってきた「現在」と、過去の回想、大切な人とのやりとりの邂逅・・・それが行きつ戻りつしながら話が進んでいく。
ここも「波」だね・・・でも、ある意味「傷み」と「悼み」かな。
自分の声が誰にも届かない・・・すごく孤独なクジラといわれる。
その声を自分に重ねていた安吾の抱えていた秘密・・・一番心を寄せ合っていたと信じていた貴湖にすら明かせなかった、明かしたくなかった安吾の抱えていたもの・・・
確かにこの設定を演じ切るとなると、ああ、なるほど、志尊淳さんだったんだなぁと納得。
自由になれない自分を自覚しているから、母親との依存を断ち切れずに苦しむ貴湖のことを支えて力になることができたけど、自分自身はいつまでも孤独のまま・・・だと。その苦しさゆえに・・・だったのかなぁ。
確かに、安吾が、貴湖のお相手となった主税に対して取った態度は、かなりやり過ぎ・・・だった。そのやり方はアカンやろ!というやり方だったから、主税が仕返しということで、安吾の秘密を貴湖の前で暴露・・・しかも母親を呼びつけるという「いやらしい」やり方だった・・・
安吾の母親を演じた余貴美子さん、圧巻だった・・・志尊淳さんも杉咲花さんも、ここでは脇役だったなぁ。余貴美子さんの存在感、嘆き、慟哭、悲しみ、主役そのものでした。
その安吾の死で、貴湖は祖母の家に逃れてくるのだけれど、そこで知り合った少年が、かつての自分のように母親の虐待から自分自身を否定するように「ムシ」と自ら呼ぶような状態で、貴湖は放っておけず、かつて安吾にしてもらったように、今度は自分がその少年を守ろうとする・・・祖母の友達だったという年配の女性が声をかける「子供はペットじゃないんだよ」と。これがまた見事な場面だった。倍賞美津子さん・・・やっぱりここでも、杉咲花さんを前にして、この場面での主役は倍賞美津子さんだった!!
こんな感じで、若い二人の主演なのだが、終わってみると、ベテラン女優さんの圧巻の存在感が余韻として長く残っていく、そんな作品だった。