炎上系ようつば倶名尚愛の1

炎上系ようつば倶名尚愛の1
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タンタたたんのたんたんたん、タンタたたんのたんたんた
倶名尚愛「皆様お待ち堂様でした。今日も炎上系ようつばー倶名尚愛のネトウヨクッキンッグの時間がやってまいりました」
前田リナ「あいおねえさま、今日はどんな料理を作ってくれるの?」
倶名尚愛「今日は会見に一歩近づく記念日として特別な料理を作りたいと思いまーす」
前田リナ「それはどんな料理かしら。リナとっても楽しみでーす」
倶名尚愛「昔。『さくら荘のペットな彼女』というアニメをやっていたのをご存知かしら」
前田リナ「うーん、内容はよく覚えてはいないけど確か原作改変で大ブーイングになって炎上してしまったアニメですよね?それがどうしました?」
倶名尚愛「はいあのアニメの原作では過労による体調不良のためにダウンしてしまった元カノを元気づけるために主人公がおかゆをあげるシーンがあったわけなんですが」
前田リナ「唐突ですね、それから?」
倶名尚愛「リナちゃん、あなたおかゆごときで元気がつくと思いますか?」
前田リナ「うーん付け合わせる具材にもよると思うけどシンプルなおかゆなら体力回復は無理ね、どっちかっていうと数日はおとなしく寝ていなさいって感じだし」
倶名尚愛「そうね、そうでしょ!元ヒロイン、じゃない元カノはしかもその時一刻も早く現場復帰しなければいけない状態だったの、だから消化はいいかもしれないけどシャビシャビでエネルギー価の低いおかゆじゃダメだったのよ」
前田リナ「うーん、話が見えてこないけど確かその話って参鶏湯を出してしまったことで大炎上をしてしまったんじゃないの?」
倶名尚愛「そこがまず大きな誤解の一つでね、参鶏湯というと大抵は鶏を丸ごと煮込んだ料理を想像するじゃない、実際にはそれはほとんどが皮で中にはお米や野菜、薬種などが詰まっているわけなんだけどそれらはとてもよく煮込まれていてとろけるように柔らかくてしかも味もとても淡白で脂っこさもないの」
前田リナ「でも作るの大変じゃない?しかも丸ごとの鶏を見てウッとなりそうだし」
倶名尚愛「まあそれはそうなんだけど作る過程でしっかり油は取り除くからね、下手な日本料理よりは脂が少なくてスッキリしている、肉自体も煮魚のように柔らかい、見た目も実際それほどグロくはないし元カノの性格を考えるとそれで抵抗を感じるとは思えない」
前田リナ「でも炎上した」
倶名尚愛「そう、いちばんの問題はそれが韓国料理だったってことね!もしこれがポトフだったらこんなにも炎上したと思う?リナちゃん!」
前田リナ「う、それは・・・でもそこでなぜポトフが出てくるのか意味不明なんですけど」
倶名尚愛「それでね、あたしは参鶏湯のことをこう命名することにしたの」
前田リナ「え?な、なんですか?」
倶名尚愛「ネトウヨ撃退料理!まさにこれしかないわね」
前田リナ「へ?どうしてそうなるの?でもそこはやっぱり原作通りおかゆで行くべきじゃ」
倶名尚愛「そこが原作者である漫画家(訂正:小説家)とアニメ監督の感性というか感覚の違いだね」
前田リナ「それはどういった意味で」
倶名尚愛「まあ簡単にいうと漫画家(訂正:小説家)の世界はおかゆでも十分に戦えるけどアニメの世界、特に声の演技で勝負する声優じゃ棒読みになっちゃう、それでは全然ダメ、ということだよね」
前田リナ「はぁ、それはわかりましたがそれできょうの料理はどういったものに」
倶名尚愛「ふぁっふぁっふぁふぁふぁ、よくぞきいてくれた、さらなるネトウヨ撃退料理を目指して新たなるレシピを考案してきました」
前田リナ「私、あなたがそんなに前のめりになると嫌な予感しかしないんですけど」
倶名尚愛「嫌な予感?それはこの電脳世界を支配する神!倶名尚愛に対する言い草かね」
前田リナ「な、なぜに突然上から目線!まあいいですけどそれで今日料理する品はなんですか」
倶名尚愛「きいて驚け!見て我にひれ伏せ!その名も牛肉チーズタッカルビ餃子だ!」
前田リナ「はい?それのどこがネトウヨ撃退料理なんですか?しかもその名前を聞いただけですぐに調理法思いついちゃうし」
倶名尚愛「わっかんないかなぁ、タッカルビといえばネトウヨの嫌いな韓国の料理、ネトウヨに多い嫌韓にとってはいわば敵!」
前田リナ「それはわかりますが嫌韓は左翼、いわゆるパヨクにもいっぱいいらっしゃいますよ」
倶名尚愛「へ?そなの?でもいいやパヨクもネトウヨも似たようなものだから」
前田リナ「勝手にいいように解釈しないで」
倶名尚愛「細かいことは気にしちゃダメ!餃子といえば中華料理、奴らの嫌いな共産国、中華人民共和国の料理、どうだ!参ったか!わーはっはっはははぁ」
前田リナ「はいはい、それでネトウヨは撃退できるんですか?むしろ炎上してこっちが撃退されちゃいそうなんですけど」
倶名尚愛「さらにさらに炎上要件をもうひとつぅ!」
前田リナ「まだあるんですか?」
倶名尚愛「チーズといえばイターリヤァ!」
前田リナ「それがどうしたと?」
倶名尚愛「実はネトウヨはイタリアが大っ嫌いなんですよ、だからチーズだって大っ嫌いなはずよ!決まっている!」
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「おらおらおらぁーこれはなんじゃーい!」
あたしは大声で叫んでいた。これじゃあ、あたしがマジモンの大馬鹿じゃないか!
あたしはリナを睨みつけた。これは一体なんだと言わんばかりに、
「へ?これから収録するための脚本ですよ?」
リナはニコニコ笑いながら言う。これを本気で録画してようつべ動画としてネットで流す気だろうか?
「いいじゃないですか?あいおねえちゃん本当にバカだから」
リナのやつ本気だ。しかもあたしの支持層がほとんどネトウヨばかりなのを知っていてそれを言わせる気かぁ。
「いいじゃん、あいおねえちゃんの存在価値ってそんなところじゃないでしょ」
そんなもんだよ、保守党議員の存在価値なんて、右翼団体的なものからそっぽを向かれたらそれでおしまい、選挙には勝てない、つうか立候補さえさせてもらえない。
「あいおねえちゃんって結構左寄りっていうか自称自由主義者に人気あるけどね」
「どこが!あたしは自慢じやないけどいつもネトウヨの代表みたいに言われているし、」
言われている、という自覚はあった。常日頃憲法は変えるべきだと事あるごとに言っているしどっかのヒゲ親父が言っているように「人権よりももっと大きくて大事なものがある」という説には同意してきた。だがそれがあたしの考えているそれと微妙に違う気がしている気がするのはなぜだろうか?
それにしてもリナよ、あたしにネトウヨを挑発させてどうする気だ。あたしは彼らにとっては女神でありアイドルであるべき存在。そんな奴に『韓国大好き、中国大好き』みたいなこと言わせちゃだねでしょうが。
あたしは荒ぶる心をリナが差し出したコップに入った一杯の水で静めた。
「まあこの先にもあんたが書いてあるけど『さくら荘のペットな彼女』の炎上案件に関してはほぼ同意だね、原作者は神様じゃないしこの監督らしさが発揮されるストーリー展開は8話以降だと思う、少なくとも第10話はいしづかあつこ岡田麿里の真骨頂だね、このコンビに女の子同士の確執を描かせたら右に出るものはまずいないんじゃないかな、そしてそれをドロドロにしないで綺麗にまとめ上げる芸当もね」
「つまりあいおねえちゃんに言わせると参鶏湯問題は些細なことだと」
それに対してあたしはあえて返答はしなかった、やっぱり韓国料理というところには抵抗がある、だがしかしリナが言うようにおかゆじゃアニメの現場では戦えないと言うのも事実だと思う、国会議員だって似たようなものだからそれは理解できるからだ。
くそしつこい野党を相手におかゆじゃ明らかにエネルギー不足で言い負かされてしまう、根性悪い新聞記者の質問攻めにも持ちこたえられない。
「参鶏湯は論外だけどひつまぶしなら良かったかも」とあたし、するとリナは『うげっ』とした顔をした。
「リナ、風邪ひいたときにパパがうな重の出前を取ってくれたことがあったけどタイヤのゴムをかじっているみたいでとてもじゃないけど硬くて食べられなかったわ」
確かにそうかもしれない、それは店の調理法にもよる、もしかしてリナはまともな鰻料理を食べたことがないのかもしれない。あたしのような駆け出しのボンビーな衆議院議員でも美味しい鰻は知っているのに。
同じ国の割とポピュラーな食べ物でもこのような認識のズレがあるのだから況してや他国の食文化、況してや相手が韓国となると誤解や偏見も半端なものじゃないのかもしれない。
そもそもあたしが韓国料理=激辛という公式が全てにおいて当てはまらないことを知ったのはつい最近のことだ。しかしそれも致し方がない面もある「牛テールスープ」と称する真っ赤な液体を提供する大手焼肉チェーン店が存在すればその誤解もやむを得ないだろう。
実際本場の牛テールスープは薄い白色の唐辛子とは縁のないコラーゲンたっぷりの美容食だ。
「今日はお金が振り込まれる日だし美味しいひつまぶしでも食べに行く?」
あたしが言うと突然リナは笑顔を炸裂させた。マヂで天使が舞い降りた感覚だ。だが次の彼女のセリフが全てをぶち壊しにする。
「あいおねえちゃん、言っておきますけどそのお金は国民の血税ですからね、感謝して使ってくださいね」
あたしなんかよりのこのクソガキが国会議員、いや、総理大臣になった方がこの国はうまく廻るんじゃないのかって思う。
「はいはい、国民の皆様に感謝しつつ二人で美味しいひつまぶしを食べに行きましょうね、その代償に勉強がてら本当の参鶏湯をあたしにも教えてね」
そう言うとあたしは出かける支度を始めた。リナはすでにポーチを腰にぶら下げて玄関口で待っている。ほんとこの国の刻人は隣国のことはおろか自国の文化、特に食文化さえロクに知らないのかもしれない。

追記第10回は岡田麿里さん脚本ではありませんでした。(シリーズ構成は岡田麿里さん)


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