ショートショート11「水飴」
「いらっしゃい。いつもありがとうね」
行き着きの駄菓子屋。情緒あふれるノスタルジックで錆びた外観が好印象だ。人足は少ないが30代の私にとっては色々とありがたい。
「えびせんに、プチプチラムネに、コインチョコに、それから水飴ね」
数ある駄菓子の中で気に入ったのは、この駄菓子屋のおばあちゃんお手製水飴。勿論ただの水飴ではない、懐かしい記憶味だ。
購入後、ベンチで水飴を堪能するのが私のルーティン。
一口舐めると頭の中で記憶が映像として流れ込んでくる。温くなった風、木漏れ日の温度、夏の音。今回は夏休みの思い出みたいだ。
一口、また一口と味わうごとに記憶はより鮮明になる。
少年少女が焼けたアスファルトを蹴って走り出す。一秒先もわからず本能のまま、もっと早く高く遠くを目指して風を切る。はじけ飛んだ汗を、泥だらけの手を、僕達を照らす夕陽を映す。
あの日の僕は何を描こうとしたんだろう。