冷や汁
友人と遊んで帰ってきた後、料理嫌いな私が珍しく包丁を握りきゅうりを切っていた。
土曜は日差しが暑かったものの、気温はそこまで高くなく、なんなら強風で少し肌寒いくらいの日だった。
が、最近の日中の暑さにより数日前から冷や汁が頭の中に浮かんで仕方なかった。
きゅうりを切って、えぐみをとるスリスリ作業(端っこ切ってそれを切り口で擦り合わせてなんかえぐみ成分とか青臭さをとるやつ)をして、薄く輪切りにして、袋に入れて塩と味の素をふってもみこむ。
きゅうり以外には刻んだ茗荷と豆腐と鯖水煮缶、そこに味噌と白だしと水を加えて混ぜて終わり。
工程的には切って混ぜてるだけなのだが、料理嫌いでズボラの私にとって、冷や汁はそれなりに具材も揃えて立派に作った感もあり、かつ簡単に作れる素晴らしい料理の一つだ。
お好み焼きでいう「たね」みたいなもので、一度作ってしまえば冷や汁はなくなるまでそのまま食べられる。夕飯、明日の朝飯、昼飯まではもつくらいの量を作った。
料理のことを少なくとも2回考えずにすぐ食べられる状態は、私にとってはめちゃくちゃに重要で幸福なことである。家事の中でも一番料理が嫌いだからだ。(何を作ろう、どれが必要だ、あれを切ったら次は炒める、その間に洗い物をして、あれには下味つけて…とかそれなりに工程がかかる割には食べ始めると15分くらいでなくなる。おそらくこの一連の流れが私にとっては苦痛で自分の中のコスパに見合わない。コスパとか言いたくないけど。それと単に作るという作業がそもそも好きじゃない。料理に限らず)
冷や汁は名前の通り、冷たい汁物で、汁物というと温かいイメージがあるがそれを覆した驚きの存在の一つだ。別々で食べるも良し、ご飯にかけて食べるも良し(…のはず)。冷や汁の存在を知ったのは、なんと20代後半の頃になってからだった。それまで冷や汁というものを知らなかった。これまでに目にしていたのかもしれないが、認識をするまでに生まれてから20年以上かかっている。たしか九州とかの南のほうの食べ物で、暑い夏にぴったりの料理だ。食欲のわかない時でもササッと食べられるため、風邪のときにも良さそうである。茗荷とかも身体に良さそうで、さらにごまとか海苔とかを足して、シンプルな料理だからこそアレンジもきく。
それから、冷や汁で思い出すのは仮面ライダー555だ。仮面ライダー555の第一話でなんと冷や汁が出てくる。主人公が入った飯屋で、バイクドライバーの女性が一人で冷や汁定食(しかも定食)を頼み、ササッとかきこんでいるのが私にとっては強く印象に残っている。昔、インスタント味噌汁のあさげだか、お茶漬けだかのCMでひたすらにかきこんで食う(食べるではなく、"食う"であることを強調したい)のを見て、とっても美味そうに感じたのを思い出すくらい、彼女は冷や汁をズズーっと無心でかきこんでいる。おそらく冷や汁が出るドラマなんて数を数えるくらいしかないと思うし、少なくとも仮面ライダー555でしか見たことはない。昨今のひとり飯ドラマ等ではもしかしたら出ているかもしれないが、ご飯のシーンで冷や汁という選択肢を思い浮かべる人も、作品も、あまりないと思う。
冷や汁はれんげで掬って食べるのが美味しい。スプーンでもいいが、やっぱりれんげのほうがなんか様になる。味噌と白だしと、鯖缶の味が混じって、そこにきゅうりと茗荷のシャキシャキ感。さらに茗荷の風味が出汁の美味しさにひとつスパイスを加えてくれる。豆腐も汁全体のかさ増しの役割を担っている。今回はいれなかったが、鰹節や海苔なんかも入れると美味しい。冷や汁は暑いこれからの時期に、心も身体も満たしてくれる、おすすめの一品なのだ。
…冷や汁定食のお店って、本当にあるのだろうか?
あったら教えてください。