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【短編小説】仮)アデリア王国物語#05

砂埃が立つヴァルハラのスラム街の薄暗い狭い通路、子供達が裸足で悪路を踏みながら追いかけっこする。

狭い武器製造の工房にサルトルは居た。

補填用の弾丸と心臓を貫通する小銃。警備を掻い潜るには城の地図が必要だが、サルトルは城は警備が物々しいから別のルートで暗殺しようとした。

自分は児童施設に預けられたのは両親が捨てた訳ではない。元から潜入の為に児童施設へ入所した。

ワイナリーの娘であるリアーナに近付いたのはその為だった。メイドとは言え、ご令嬢、趣味や父親の不満を聞くのは家の構造を知る為だった。

父親のアンドレアはバイレード大佐と深い関係にある。

「ちゃんと発砲できるか、試して良いか?」

サルトルはリボルバーを回して、工房の男の頭を撃ち抜いた。男は倒れてテーブルで突っ伏す。血溜まりがテーブルに広がった。血がポタポタと床に落ち、子供の笑い声と駆けっこする足音が遠くに聞こえる。

「次からはちゃんと不発弾の銃を送るなよ・・・。」

不発弾の銃を送られてきた時はサルトルは苛立った。

サルトルはキセル煙草に火を点ける。

二度と失敗は繰り返せない。

サルトルはドゥオモ家のワイン解禁日のパーティーに潜入しようと考えていた。

パーティーの準備はまだ先で、朝日を浴びながらリアーナは起きて座ったまま背伸びした。 

****** 

「おはようございます。リアーナ様。」

ドアの合図が聞こえて、返事をする前に勝手に開く。女執事のレベッカが嬉しそうにティーカップのカートを引きながら寄ってくる。

テレサティーカップは貿易の取引にも重宝され、高級カップとして世界中に知れ渡っている。製造は委託であるが、華やかなデザインはカトリーヌの考えが反映されてる。

「顔を洗いましたら、朝食のご用意があります。家族水入らずのお時間をたっぷり満喫下さいませ。」

顔を洗ってトイレに行った後に歯磨きをする。ベットに座った後から執事は手際良くガラスティーポットで紅茶をそそぐ。角砂糖を入れた後、マヌカハニーに漬けた輪切りのレモンを浮かべる。

「モーニングティーは皮肉に合わないわよ。」

紅茶を啜り飲み、一息ついた。

「皮肉ではないですよ。リアーナ様が戻ってきた事で、我がドゥオモ家は結束の絆が改めて深まったじゃないですか?」

リアーナの髪に付いた埃を取る。そして、ブラシでゆっくりと髪の毛を整える。

「いつ、何処で?」

艶のある亜麻色の長い髪の毛でメイド服を着てた時は上で結ってあったので短く見えたが本来は腰まである。

「何れ、パーティーにバイレード大佐が来て下さる様、準備しなくては。なんてったってバイレード大佐は由緒正しいこのアデリア国の王族ですからリアーナ様が側室になったら街中が盛大に盛り上がりますよ。」

ヘアオイルのミストを頭に掛けて馴染ませる。こうするとより髪の毛が綺麗に光り輝く。

「はぁ〜。」

リアーナは溜息が出る。一日の二酸化炭素を吐いた気分だ。

「この何年もバイレード大佐に会ってないのよ?パーティーに出たのは一度きり。次に会った時は私に毒味しろと言って毒を持ったスパイじゃないかと疑われたのよ。絆が深まるどころか信用が落ちてる。それなのに結婚?」

レベッカは穏やかに問い掛ける。まるで母親の様に。

「結婚です。こんなに初心で可愛いご令嬢は他に居ません。社交界で夜遊びするご令嬢とは全く違います!!」

社交界の噂話は、色々と母親のカトリーヌから聞くみたいだ。

「初心で可愛いは言い過ぎというか執事の視界はワイン畑以上に遠くまで腐ってるのでは?」

リアーナはレベッカを疑った。執事はほくそ笑み、だが穏やかな口調でゴシップ好きを明かした。

「腐ってるのは目だけじゃないですよ?心も、です。」

リアーナはレベッカに呆れ返った。ここまで大佐ゴリ押しだとは思わなかったし、ここに来てから異常だ。

メイド職から離れてここ一週間は部屋で寛いでいたが、リアーナはワイン畑に散歩に出掛けた。ワイン畑は土の手入れが行き届いていてやはり父親の管理が行き届いてるせいか。

ワイン醸造所に入るとオークの古樽の揺りかごに眠る我が子は育ってる。

このテレサワインを飲むと奥行きのある芳醇な香りと重層的な深い旨味、軽やかな渋みが魅力だ。

「一口、いっか。」

ワイングラスを持ち、積み置かれた樽の蛇口をひねると水道水の様に赤く濃厚なワインが香り立ちながらグラスに流し込む。キルケー家の料理も厨房で安いワインを使うが、やっぱりテレサワインの方が美味しい。

「やっぱり、この香りでないと。」

このワイナリーでは、残りの絞りカスであるワインパスミは再蒸留しマールやグラッパで使用されるが、最近ではチョコレートなどにも使われる。

実は、ワインパミスは抗酸化物質であるポリフェノール類がワインよりも豊富に含まれていて産業の新たな展開として期待されていてチョコレート専門店でも取り扱う様になった。

執事のレベッカの話では今年のパーティーはワインとワインパミスを使ったジャムとチョコレートが披露されるだろう。

リアーナはまだジャムやチョコレートは食べた事がないのでパーティーの参加に少し心がくすぐられて揺れ動いた。

【続く】

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