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【短編小説】仮)アデリア王国物語#02
カーンカーンカーン。
塔の鐘が鳴り響く。この街の時間帯をお知らせする点鐘だ。
点鐘は海まで聞こえる。遠くのアデリア軍旗の大型帆船にもだ。
「錨を下ろす準備をしろ。」
甲板から急ぎ足の軍靴の音が複数、響く。
カモメが滑空して帆船の積み荷の上で両翼を広げながら着陸してその場で毛づくろいをする。
「久しぶりの帰郷だ。」
ニュアンスパーマが掛かった金髪で何処か陰のある伏し目がちの怜悧な瞳が印象の階級章の軍服を着たバイレードがほくそ笑む。
アデリア王国は他国と陸続きの半島が領土であり、周りに小さな島々が点在する小さな国だ。
地域一帯を管轄する領主はキルケーと婦人のマリアンが桟橋から声を掛けてる。
「お待ちしておりましたぞ。バイレード大佐。遠征の長旅、ご苦労様であります。」
老躯のキルケーが嬉しそうに話す。バイレードが船から降りると近寄ってくる。
「さあ、我が屋敷に来て下さい。」
桟橋を歩きながら喋り合う。バイレードは荷馬車に乗り込み、出発した。
リアーナは真新しいメイド服に着替え、住み込みのメイド寮で一区画の廊下を掃除する。
年輩のメイドが引退し、知人を介してキルケー夫妻の屋敷に働きに来たのだ。
メイド寮だけでなく、キルケー家の屋敷内のトイレ掃除、浴槽、各部屋のベットメイキング、タオルの交換、来客用の料理の配膳、燭台の準備と大忙しであった。
客間では西洋造りの豪華な装飾にキルケーの家主が好きな大輪の花に横座りしたビーナスの彫刻が飾ってあり、艶のある木製のテーブルと蔦と花模様のレリーフが入ったソファーがある。
バイレードは座ってるとの情報が入り、メイドが紅茶入りのガラスのティーポットと青色の上線が入った磁器のカップが入った小型のカートを持ってくる。
メイドは廊下を歩き、客間の扉に近付くごとに心拍数があがる。
重い扉の両サイドには護衛の軍人が佇んでる。
合図のノックをすると執事が扉を開けてくれた。
リアーナはゆっくりカートを押し込み、テーブルの中央にカートをセットする。
既に砂糖が入ったカップに濃いめのアールグレイを注いで、先にバイレードに、後に主へカップを置いた。
零さずに置けてホッとした束の間、視線を感じバイレードが睨んだ。
「飲め。」
リアーナは驚き、困惑する。訳が分からず、呆然とすると家主が小声でリアーナに丁寧に説明する。
「毒味って事だ。」
軍人故に警戒心が強く、致し方ない。
先程のかき混ぜたスプーンを使い、リアーナが毒味をする。
すると、舌の上には強烈な苦味を感じた。
「ヴッ!!」
リアーナは苦味を危険だと思い、カップに嘔吐した。
「貴様!!俺に毒を持ったな!!」
表情見た事もない形相と怒号が響いた。
バイレードは腰にある軍刀を抜刀し、老躯のキルケーの喉元に刀を突き当てる。
「めっ滅相もございません!!」
瞠目したキルケーは戦慄いて仰け反り、パニックになっていた。大声に警備していた護衛の軍人も駆け寄った。
「この状況は何だッ!?毒を盛るのはお前しか居ないッ!!」
忌々しげに見つめる、両者が緊迫した空気の中、キルケーの執事・アルフレッドはリアーナに近付く。リアーナのメイド服に毒薬の紙包みがないか探し当てる。
「ゲホゲホッ。」
リアーナはしゃがみ込んだ後も咳き込む。キルケーは護衛隊に羽交い締めされ、連行される。
「毒薬の紙包みは持ってません!!私も調べて頂いても構いません!!ですが人命救助を先に!!」
「医者を!!誰か!!」
キルケーの妻は夫の連行にパニックになりつつも、メイドの状態に指示する。
執事は医者を呼びますと叫んで、客間を出た。
バイレードは歯を食い縛り、軍刀を握り締め、藻掻き苦しむリアーナを睨み付けた。
【続く】