【短編小説】仮)アデリア王国物語#08
リアーナは一人で王城の石門を馬車で橋を通過する。
「私が身の回りをお世話するレオナルドです。」
リアーナ専門の執事が出迎えてくれた。
玄関の地平線の彼方に続く赤い絨毯にリアーナは驚いた。遠近法で見える天井のアーチと天を貫く様な飾り支柱が並ぶ。
巨大な城の構造にリアーナは歩く度に圧倒的な世界観に吸い込まれ、自分が小人に気分になる。
迷路みたいに入り組んだ王城は戦乱の為に複雑にしてある。
「こちらがリアーナ様のお部屋になります。天蓋のカーテン付きのベットに壁には化粧台、飾り棚、洗面台と個別トイレ、クローゼットは隣の部屋です。壁掛けの絵画の裏には護身銃であります。これは新たにバイレード様が注文した隠し扉です。」
壁掛けの隠し絵を外し、金庫の中の銃を見せる。
「まあ、銃を扱えないと思いますのでその場合、レオナルドか、バイレード様の兄上である、アシル様をお呼び下さい。」
執事はアシルという名を口にした。バイレードに兄が居るのを知らなかった。
「アシル?」
「ええ、アシル・アブガルシア。年齢、23歳。王位継承は第4位です。」
新聞でしか聞いた事ない。テレサワインのパーティーにも参加した事がない人物だった。
聞くところによるとワインではなく、ウイルキーしか飲まないみたいだ。
「荷物は大体、片付けました。一日のスケジュールはこちらのテーブルへ置いておきます。それとアシル様は好奇心が多いのでくれぐれも夜は距離感を保つ様に。」
ある程度、物を整理して、最後に執事のレオナルドは忠告した。
「距離?」
「バイレード様よりモテますからね。」
では、ごゆっくりと執事は告げて帰っていった。
置いていったテーブルにはこの王城の間取り図も書いてあった。避難経路もある。
リアーナは父親の言葉を思い出した。
本当にバイレードは結婚を承諾したのだろうか?
無理やり要求を飲んだ可能性がある。
バイレードや周りの王族のアシルも父親の考えに気付いてる筈だ。執事の距離を保てというのはアシルだけじゃない気がする。
コンコンと扉の音がした。
「えーと、貴方は・・・アシル様?」
扉を開いたのは王族の服を着た高身長の男が立っていた。どことなく、バイレードに似てる。
第一印象が冷たいバイレードとは真逆のアシルは温厚そうな優しそうな顔をしていた。
「そうだよ。ドゥオモ家のご令嬢。挨拶したい所なんだけど、一つ聞きたい事があって・・・。」
兄のアシルは何かしらの複数の資料を手に握ってる。
「キルケー家のサルトルについて調べたのだけど、自白に可笑しな点があってね。」
リアーナにも分かる様にと資料を持ってきたみたいで、アシルは目を細めながら側に近付き、ベットに座るリアーナの首を絞める様に押さえつけてベットに倒した。
「ううっ!!」
「リアーナはサルトルと異母兄妹なんだってね・・?・サルトルの父親はアンドレア、母親はレベッカだ。」
アシルは睨み、煽る様な冷酷な瞳でリアーナと痛め付けた。
「金庫の護身の銃も要らないかなって思って・・・ここに来たんだ。」
リアーナはアシルの手を掴む。ググッと深く喉仏を抑えられて、呼吸が出来ない。喉が締まって苦しい。
「ハァハァハァ!!」
リアーナは涙目になって過呼吸になる。接近したこの空間が怖くてたまらない。
「うん・・・悪い。やりすぎたね。」
優しい声でそう嘯いてアシルは首締めを止める。過呼吸になるリアーナを楽しそうにうっとりと見つめる。
リアーナの頭を撫でて可愛がる。そして左肩の傷にキスをする。
「王族に盾突く場合には、何処の貴族だろうと調べなければならない。勿論、王族の身内や外国勢もあるから気を付けないと。権謀術数で僕らは手のひらで転がされてるのかも知れないね・・・。」
アシルはリアーナを開放し、考え込んだ。
サルトルの虚言という可能性もある。
******
「・・・リアーナ、来て。」
第一王子のアシルに案内されたのは空中庭園という温室植物園がある。植物の森には小鳥やリスが暮らしてる。
「素敵・・・。」
リアーナは呟いた。
小鳥がリアーナの頭や肩に乗る。飼いならされた子供は人間の会話も覚えるそうだ。
テーブルにはコーヒーと苺と生クリームたっぷりのケーキが用意されてる。
「バイレードには勿体ない位だ。」
先程の雰囲気とは変わってアシルは怒っていない。頼まれて拒否は出来ないのでスイーツを食べた。フォークでケーキを食べ続けるリアーナの顎にスッと輪郭を指で撫でる。
「レオナルドの執事が夜は距離を置く様にと。」
「もう注意されたのかい?全く抜け目のないなァ。」
リアーナの背中にアシルは名残惜しいと嘆く。
リアーナの耳飾りの揺れるイヤリングの横でケーキを見つめ、ホイップクリームも指で絡め掬い取る。
そして、リアーナの胸元にホイップクリームを付けてアシルは食事を邪魔する様に吸い付く。
「止めて下さい!!」
リアーナは椅子の中で緊張して恥ずかしくなる。
「ん〜。香りが良いね。くすぐられるよ。」
甘い声に変わって耳を喰むという行動にリアーナはパニックになる。
「今夜、ベットに来て良い?その身から香る果実を食べたいなぁ。」
テーブルの下にあるスカートを撫で付けて捲ろうとする。捲った素肌を指先で撫でて卑猥な事をしようとする。
「っ・・・ダメです。」
リアーナはテーブルの下で蠢く、手を掴んで押さえ付ける。
「・・・ここで出したいなぁ。ケーキより、とびっきりの熱いジュースを振り絞りたい。」
熱いジュース?
リアーナは混乱する。
「自家製のほろ苦いジュースだよ?リアーナには外はまだ早いかな?」
体を離してクスクスと笑うアシルにリアーナは子供をムカつき、怒り出す。
「ジュースくらい、飲めます!」
その言葉にアシルはゾクッと壊したくなるものを感じた。しかし、いつもの表情に瞬時に戻り、嬉しそうにしてハグした。
「もう、その勘違いが可愛い。」
アシルはさあ、ケーキをお食べと白くて濃厚な生クリームを口に運ばせて子供を可愛がる様にニコニコしていた。
あれから一週間、経過した時の事、リアーナは王城内の散策して廊下を歩いてると一羽の伝書鳩が廊下を飛行し、滑空して来た。
「・・・伝書鳩?」
鈎足に結んであった手紙を開くとバイレードからの伝言だった。
海で警戒にあたっていたが部下に海の監督を委譲し、一時、王城に帰る、との旨が書いてあった。
「バイレード大佐が帰ってくる?」
あの事件以来、バイレードとは会っていない。
逸る気持ちを抑えて、リアーナは手紙を書き、伝書鳩の足首に紐付ける。
数時間経った後、バイレードは帰城して来た。
「お帰りなさいませ、バイレード様。」
リアーナは一週間前に会ったアシルとの色んな出来事をした。身の危険を感じ不安に思ってた事を。
「・・・首を絞められた、だと?」
目が据わり、微動だにしない。すると、片方の口の端が歪んで微笑んでいた。
空中庭園でドレスのスカートを捲られて触られた事も話すと明らかにバイレードの眉間にシワが寄る。
兄上に対して文句はあった事はあるが、これ程まで憎んだ事はない。
リアーナの部屋の隠し絵の金庫の銃で使って殺したい気持ちに駆られたのは初めてだった。
どす黒い嫉妬心が現れる。
「・・・これからは接触禁止だ。」
帰ってきて早々、バイレードは不機嫌になった。静かに告げる言葉は柔らかな口調だが、棘がある。リアーナの頭をクシャクシャ撫でてバイレードの優しい態度にホッと安心を覚えた。
【続く】