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正社員モラトリアム

役者という仕事を選んだ時から
社会の外システムの外で
生きていきたいと願っていた。

そこもまた社会の中であったという
当たり前の事実に気づいた時
長い夢から醒めたように
呆然としている自分がいた。

会社なんて正社員なんて
わたしには関わりがないことだ。
ずっとそう思っていた。
組織の腐敗や、隠されたカーストや
そんなものを見るたび
嫌悪感しか抱かなかった。

それなのに。
ここに来て、それが変わってしまったのだ。
人は人を変える。

わたしはここで
ザ・正社員としか言えないような
働き方をする人間を見たのだ。

こんなに頑張るのか。
こんなに背負うのか。
こんなに泣くのか。

そういう責任のとり方をする
正社員として働く人間を見たのだ。

結局は人なのだから
役職ではなく
その人間が優れていたのだ。
そう言われれば、その通りなのだけれど。

でも、その人に会って
わたしの概念は確かに変わったのだ。

正社員。パート。派遣。
どんな名称でも
真摯に働くのだ、と思っていた。

でも、学んだ。
誰よりも多くを背負い
優しさを捨てなかった人間に
人はついて来るのだということを。

その人の担っていたものが
正社員というものであるなら
わたしはもうそれを
嫌いになることは出来なかった。

わたしは
一生、正社員モラトリアムで
正規雇用されることはないだろうけれども。

心は正社員になってもいい。
そんな愚かな考えさえ浮かんだのだ。

人は役職で雇われるのでも
お金で雇われるのでもない。

私なら、情で雇われる。
安い賃金でもかまわない。
義理と人情があれば
汗水流して、働きたいと思う。

義理人情には黄金の価値がある。
わたしはあと少し
その前で、夢見ながら働こうと思う。

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