月面宙返り
武藤敬司選手の引退試合を観てきた。
わたしはプロレスについては全くの素人であり、旦那さんに教えてもらいながら観始めたド新人である。だから何もわかったようなことは書けないし、書くべきでもない。
でも書きたかった。あまりに美しかったから。
楽しくて楽しくて、幸せだったから。
天才っているんだな。
武藤敬司選手を生で観て思うことは、ひたすらそれであった。
かっこいい天才。わがままな天才。異様さの天才。
そして、優しさの天才。
武藤選手を観ていて感じたもの、それは天才とは俯瞰するものであるということだ。
心ここにあらず。
いつもどこかを彷徨っているようだ。
きっとその時、心は月面にあるのだろう。
ムーンサルトプレスは、2回飛ぼうとして、2回飛ばなかった。
満身創痍の体と心の、人生と命を賭けた判断を私たちは観ていた。
武藤選手。
2回も、飛ぼうとしてくれてありがとう。
そして、飛ばないことを選んでくれてありがとう。
引退によせて詩を捧げた、古舘伊知郎さんは語った。
武藤敬司に「二元論」は通用しない、と。
全日本と新日本。プロレスと総合格闘技。
二者択一の価値観では、彼を理解することは出来ない、と。
月面を舞うことも、舞わないことも
またそれぞれに美しかった。
内藤選手と戦ったのに、本当の最後は蝶野さんと戦ったことも、素敵だった。
正解などないのだ、人生に。
そんなことをはじめて、真剣に思った。
優しさとは、足が悪い武藤選手に手加減することではない。
優しさとは、その相手をどんなに愛していても全力で叩きのめすことだった。
プロレスとは、真に真に
ひたすらに…浪花節だった。
涙をありがとう。勇気をありがとう。
武藤敬司選手、本当にお疲れさまでした。
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