
文化的雪かき
「・・・・ ほんとうにそうだと思うんです。
僕たちの世界には理由もない壮絶な暴力や邪悪なものがたしかに存在する。
そういうものに僕たちはほんとうになにげなく角を曲がったとたんに出くわしたりする。
それがもたらす被害を最小化するためにも、日常生活の細部で決して手を抜いてはいけないんです。
アイロンをきちんとかける。
鉛筆を尖らせて削る。
適切な塩加減でスパゲッティをゆでる。
そういった気配りは少しも表層的なことではなく、生きる上での根本に関わることなんです。」
「「文化的雪かき」という言葉が
『ダンス・ダンス・ダンス』で出てきますが、
ああいうことを主人公の責務として描いた作家
なんてこれまでいないんじゃないですか。
一人一人の雪かき仕事のような無名の、ささやかな献身の総和として、世界は辛うじて成り立っている。
そういう労働哲学、僕はとても好きです。」
ー内田樹「村上春樹の労働哲学」より引用ー
邪悪なものの鎮め方について、考えていた。
内田樹さんはそんなタイトルの本も出されている。
ああ、そうだ。
邪悪なものの鎮め方は、春樹さんのテーマだ。
もう一度村上春樹を読もう。
そう思って今は再び「アフターダーク」を読んでいる。
邪悪なキャラクター。
ワタヤノボル、リトルピープル、やみくろ
そして白川…
様々な作品で登場して来た、存在たち。
村上春樹は「悪しき者の語る物語」に
立ち向かうための様々な方法論を
何度も何度も繰り返し
わたしたちに伝えようとしてくれている。
ー村上は97年から98年にかけて、地下鉄サリン事件の被害者にインタビューした「アンダーグラウンド」と、オウムの信者・元信者を取材した「約束された場所で」を相次いで発表した。それ以降、村上は「(教祖の)麻原が信者に与えた悪(あ)しき物語に対抗する力を持った物語を書いていかなければ」と繰り返し発言している。
過酷な現実を非現実との狭間で昇華させることで、傷ついた人々に生きる力を与える。村上は社会が求めている物語の形を、常に模索している稀有な作家であるー
(朝日新聞 村上春樹特集より引用)
人との心の繋がりが(愛、友情、奉仕)
悪の侵入するスピードを遅くし
文化的雪かき仕事が(丁寧な労働、職人技、細部にこだわるということ)
呪術のように悪を阻む結界になる。
だから善なる者は
一日も休んではいけない。
結界を張ることに、休みなどないからだ。
大切な人を愛し、友を労り、尽くそう。
心を込めて働き、細部に在る神に感謝しよう。
人々に永く愛される物語は皆同じに美しい。
スター・ウォーズも。
踊る大捜査線も。
献身、の物語である。
春樹さんから学んだ「物語」を
わたしは継承して
生きていきたいと思っている。