あたらしい欲望
ふっと首をもたげる
それは小さな感情だ。
隙間に生きている言葉。
余剰。いらないもの。この世界では。
時間と役割とお金に区切られて
生きているわたしたちには
自分が何者かわからなくなる時間がない。
いつも決まっている。
何時まで。なすべきこと。その値段。
芝居をしているとそれがわからなくなる。
自分が誰なのか。何なのか。
善であるのか悪であるのか。
肉体なのか精神なのか。
何もかも、わからなくなる。
わからなくなることを
わたしは求めているのだとしたら
それはある種の破壊願望であろうか。
壊してしまいたい。今の自分を。
あるいは社会の中でいつの間にか
空気を読んでいる、その弱さを。
壊れたとき、深く息が吸える。
そのことに気づく。
それは愛に似ている。
侵略してくるもの。
わたしを目指して、押し寄せてくるもの。
それに支配され
揉みくちゃにされ
そうすることでしか
ほんとうのところ私は
解放されることが出来ないんじゃないのか。
自由、なんてほんとうは
そんな格好悪いことを言うのではないのか。
奪われる。
すべてを。
そのことにより
赤ん坊のような気持ちに
人はなり得るのだ。
辛いこと、醜いこと、間違っていること。
汚いこと、悪いこと、正しくないこと。
わたしはそれらを
この身の内に宿している。
むしろそれが服を着て、歩いている。
正しく、なりたかった。
いつか。
明るくて
純粋で
軌道から外れない
人間になりたかったのだ。
そうではない自分を
ずっと嫌いだった。
わたしは正義を通すために
人に嫌われ
闘い
表現をするために
いつも崖っぷちを歩くような
たまにはほんとうに落ちるような
人生を生きてきた。
世間のルールの外で
生きてきた。
もっと上手く生きられる。
もっと静かに生きられる。
もっと楽に生きられる。
もっと世間の皆はきっとそうしているのだから。
そう?
ほんとうにそうだろうか。
メディアが伝える皆は
はたしてほんとうの皆だろうか。
わたしはあなたの何を知っているんだろうか。
世間も
軌道も
時間も
お金も
愛も
存在しない。
まずわたしがあって
すべてはその先にあるのに
まだこんなにも思考の整理が出来ないでいる。
愛したければ愛するだろう。
怒りたければ怒るだろう。
それが人にとってどう映るか
それを自分が分かると思うこと自体が
すでに驕りだ。
第三者的人生はもういらない。
やりたいことをやる。
思いたいことを思う。
話したいことを話す。
それがこんなに難しくて
一からだなんて
今まで何をやってきたのか。
自由はここにある。
この心臓の音。
この言葉。この心。この瞳の中に。
何もかもを失う覚悟をする。
そうでなくてどうやって
今まで芝居なんてやってきたのか。
失うべきものは失うのだ。
生きたいように生きるとは
そういうことだ。
わたしはわたしの欲しいものをとる。
仕事も芸術も愛も。
自分の欲しいバランスを選ぶ。
そのために話す。
言葉を使って。
自由を得るために
それはすることだ。
わたしはなにが欲しい。
子どもの頃からわからなかった問いに
今はじめて向き合う。
わたしはなにが欲しい。
どんなことがしたい。
なにが嫌で、なにが嫌いで
どうしても手放せないものは何。
尋ねている内にきっと
ひとつずつ鎖が外れてゆく。
自由になることを望まない。
それもまた自由だ。
解放も幸福も望まない。
何かを得ることも。
それもまた選択することである。
わたしは何を望み
何を選ぶ。
その答えは
心に聴けば分かる。
そうして今度は
その答えを
ずっと忘れず
憶えておこう。
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