うつくしい・いとおしい
感じていく。
言葉が今わたしの中を素通りして。
行きたい場所しか見つめないで。
わたしは追いつけない。
人には責任があるのだ。
ルールがある。
愛と責任は同一のものだから
感じるままに動いてはいけない。
それでは獣と一緒だから。
でもごくたまに
わたしよりも早く体が動く。
わたしよりも早く心が動く。
手が出て足が出て
感情が溢れ出る。
涙が出て混乱して
一瞬どうしようもないほどの
至福を感じることを
わたしは確かに選んではいない。
選ばなくてもそれが
胸に飛び込んでくることの
それは罪なのだろうか。
それはまた考えることだ。
考えてもどうせわたしにはわからない。
このぼんやりの頭では
何もわかるはずはない。
わたしにはほぼ
感じる機能しかついていないのだから。
どう演じるか悩んだことはあまりない。
当たり前だ。
ほぼ演じていないのだから。
感じることしかどうせ出来ない。
感じて呼応する。反射する。
それだけの人生だ。
それならそれでいいではないか。
四十年生きても、それだった。
他に出来ることはなかった。
もうそれが結論なのだ。
ならばもっと深く潜れ。
もっと神経の線が切れるほどに
鋭く震えるのだ。
感じ続けて
呼応し続けて。
その先に何があるのかを
わたしはあと半分の人生で見てみたいのだ。
わたしの内側に入って来ないで。
わたしを傷つけて遊ばないで。
ずっとそう思っていた。
人間が恐くて、いつか世捨て人になるのだと
幼稚園児の頃のそれが夢だった。
使われなくなった電車の中に住むのだ。
たったひとりで。
あの頃わたしは、自分の言葉しかない世界の
零下の温度を知らなかった。
猫のように。
純粋に残酷に、可愛らしく。
わたしを訪れればいい。
傷つけ弄び捨てればいい。
それは純粋に実験なのだ。
神の手の上における。
わたしは刺激され
何かをぶつけられなければ
発信しない電波
発光しない岩石なのだから。
淡々と、呼応しよう。
腹がたてば怒り
やるせなければ泣き
気に入らなければ押し黙り
そうやって発光し、発信する。
宇宙に向かって。
うつくしい、ということの
それは意味に似ていくかもしれない。
う、つ、く、し、い。
い、と、お、し、い。
こんなにも人は
愚かなことばかり考える。
刹那的で、無謀で
それでいて細やかに生きようともがく。
恋愛なのだ、すべては。
恋愛で、革命で
実験で文学で、夢と希望で
博愛と打算だ。
すべてはただ過ぎ去るもの。
あらかた消え去り、砂になるもの。
あなたとわたしのこの指先すら。
残らない。何も。
心さえも、言葉も
残像も過ぎ去りゆくもの。
だからあなたを見つめる。
生きているから。
まだ心臓は動く。
まだ血は流れる。
まだわたしはここに在る。
限りない嘘と真実の狭間で
わたしは
この世界を
とても愛している。