
愛そう
もう駄目だ、と思うことがある。
エネルギー切れ、状況の悪化。
巻き返せるターンはとうに過ぎて、打つ手がない。
体も悲鳴をあげはじめる。
理由のわからない熱が頭をぼんやりさせる。
「参りました」と言えたら、楽になるのだろうか。
きっとそうだろう。
そうすれば、私は全てのものから開放され、ぐっすりと眠れるのだろう。
生き物であるなら、そうすべきだ。
生き物であるなら、自分の本音に素直であるべきだ。
それをしないから、余計なトラブルに見舞われる。
後で、泣くことにもなる。
でも残念なことに、私は生き物である前に「人間」なのだ。
間違っている、それは生物学的に。
わかっているけれど、変えられない。
私は骨の髄までどうしようもない「人間」というものなのだ。
「参りました」と言えたら楽になるのに、言いたくない。
トラブルなんてごめんだし、ストレスから開放されて安眠したいと切に願っている。
それなのに、無駄な時間稼ぎをしている。
なんて愚かなのだろう。
心底そう思う。
愚かでけっこう。無駄でけっこう。
今の今まで、私がまともな判断をしたことなど果たしてあっただろうか。
ない。ないのだ。
私は終始一貫して、爪先までちゃんと愚かだった。ずっと。
打つ手がない。エネルギーもない。
何もできない。
そんな時は、時間稼ぎだ。
ぼんやりしていよう。
そしてやがて必ずやって来る、次のターンを待つ。
したたかに、狡猾に。
それまではただ、私の大切な人々を愛そう。
愛することは疲れないから、ただ愛そう。