あなたへ
すべては心に嘘をついたことからはじまっていた。
才能について、愛について、真実について。
共有していたすべてのもの。
共有出来なかったすべてのもの。
わたしたちは袋小路にいた。
前にも後ろにも、上にも下にも道はなかった。
そこで抱きしめ合うしか出来ることはなかった。
でもそれは選べなかった。
人には愛の他に捨てられないものがあるのだ。
例えば才能。例えば真実。
そして例えば正義。
わたしには捨てられなかった多くのもの。
わたしはあまりにも頭でっかちで偽善者で
そしてあなたを愛しすぎていた。
あなたにわたしは合わないことを知っていた。
やがて来る季節のように、風にのる鳥のように
あなたはわたしを忘れていく。
そのことを知っていた。
それは生き方の問題だった。
呼吸の仕方、いつもする失敗、疲れたときにでる癖、家で着ている寝間着、やけ酒の頻度。
そんなくらいの問題だった。
でもそれは永遠に埋まらない河だった。
あなたにわたしは言いたいことがあったのだ。
河は渡れなくてもずっとここにいると。
触れられなくてもずっとそばにいると。
それは伝えてはいけない言葉だった。
風にかき消されるべき言葉だった。
愛とは不思議なものだ。
ぬくもりや優しさを紡ぐことのない
出口のない愛も存在する。
時間がたっても結晶化したままの
瞬間冷凍の愛だ。
人生には解明できないこともある。
どうしたらよかったのかわからないままの愛もある。
だから綺麗だ。
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