すきな風すきな夢
村上春樹という世界。ラジオから聴こえる不思議なくぐもった声。セクシーで不安定な冒険。
暖かい台所で考えていること。鍋にするか中華炒めにするか、濃い味にするか薬味まみれにするか。
コーヒーがビーカーに溜まる時の、とぽとぽと鳴る音。ほぐれるたゆたうさまよう隙間。
ウェス・アンダーソンという色彩。
小津安二郎という四角の集まり。
タルコフスキーという精神の破綻。
映画という構図の中で暴れまわる、おかしな人たちと美しい人たち。
パラリラパラリラとしか表現出来ない、難解な任侠映画の音楽と怒号。
ひとつの洋服が決まってから、展開されていくタンスの開けしめ。
イヤリング、化粧、香水にいたるまでの
完成への道のり。
秘密の鼻歌とデートの作戦。
納豆ごはんではじまる、ぼんやりとした日曜日。
平日とのあまりの違いに、相対性理論とアインシュタインに思いをよせる朝。
ごはんを食べた後、畳に大の字になる幸せ。
上野、新宿、吉祥寺。
ビールもつまみも美味しいけれど、まだここは一軒目であるという至福。
横丁という魔法。
すきな風すきな夢。
世界は優しさと面白さと、美しさとおかしみと
色香と風情と傷つきやすさと
そんなものの詰まった玩具箱で
だから、こわがらなくていい。
すきな人もすきな愛も
あなたのすぐそばで、息をしている。