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【エッセイ】自分との手紙のやりとり #シロクマ文芸部 #手紙には

手紙には変な思い出がある。

実家の玄関を出るとどうだんつつじの植え込みがあって、はくもくれんの木があって、飛び石をとんとんとんとん、と4つとぶと古びた木の門の横に銀色の錆びかけた郵便受けがある。

そういえば15歳の時に塾に遅刻しそうで急いでいたら4つめの石でつまづいて受験生だというのに足首にひびが入ってしまったので、四角い形の4つめのことは今も少し恨んでいる。

小さな頃の最初の仕事は家族にきた手紙をわけることだった。
幼稚園から帰ると制服(私の幼稚園は女の子も男の子もセーラー服の制服だった)のまま郵便受けをのぞきこんで、1枚ずつ宛名を見てよりわけていく。

大半はダイレクトメールだったけど、たまに宛名が毛筆で読めない手紙が混じっていて書道の師範のお免状を持っている祖母に読んでもらったりしていた。

そのうち、ふいに疑問がわいた。
「どうして、わたしには手紙がこないんだろう……?」

そして「自分で書けばいい」と思いついて、緑の折り紙の裏に「なおちゃんへ げんきですか?」とクレヨンで書いて半分に折ると自分の家のポストにそっと入れた。

わたしは幼すぎて赤い郵便ポストと家の郵便受けの違いがいまいちわかっておらず、手紙というのは自分の家のポストに入れると何者かに回収されていって相手に届くものだと信じていた。

次の日になってそっとポストをのぞくと、折り紙はまだそこにあった。
なくなっていない、とがっかりしたけど気を取り直して手紙の返事を書くことにした。

少し考えて「わたしはげんきです。きょうはいいてんきですか?」とまたクレヨンで折り紙の裏に書いて半分に折ってポストに入れた。
いつまで続いたかは覚えていないけど、そうやってやり取りをしていた。

実はもっと大人になっても自分とのやり取りは続いていた。
大きくなって携帯を持った時に、別にただメモ帳に書いたっていいんだけどたまに自分宛てにメールを送ってみると少しだけ時間差があって届くのでおもしろかった。今日の気分を書いてみて、また返事を送ってみたりする。

一時期そうやって1人でリレー小説を書いていたんだけど、あれはけっこうおもしろかった。

SNSのアカウントもそうで、前に鍵アカウントにして全く誰もフォローしない、というのをやっていて、今日の気分を書いてみてまた何日か経ったら自分にリプを送ったりしていた。

LINEは自分だけのトークルームを作れないみたいなので少し残念……。

そういえば最近自分から手紙が届かない。忙しいのだろうか。
いつかまたやってみたら面白いかもしれない。



シロクマ文芸部さんの企画に参加させていただきました。ありがとうございます。




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