【エッセイ】絶対結婚しような! #青ブラ文学部 #気になる口癖
「絶対結婚しような!」
最初に聞いた時は呆然とした。な、なんじゃそりゃああああ。
私が今まで聞いた中で、1番衝撃的な口癖。
と言っても、女子地下アイドル現場での話である。
初めて耳にした日は、衝撃が大きすぎて思わず夜眠る前に考え込んでしまった。
というのも、この言葉って普段の生活の中で使う機会ある?
好きな人にはもちろん恋人にも言わないと思う。とにかく軽すぎる。
結婚しようにも体は1つしかないし、たいていは戸籍も1つしかないのである。もっと慎重にならなければ。
こんなことを入れ替わり立ち替わり色んな人に言われてもたいていの子はニコニコしているので、アイドルというものは懐が深いなあと思った。
並みの人間なら気が狂っているところである。
この言葉は私の知り合いの男の子の口癖でもあった。ライブのたびに何回も何回も大好きなアイドル1人に対して言う、奇妙な口癖。
彼がすごく若かったこともあって、ほほえましいというか、いじらしいというか、私はいつの間にか側でこの口癖を聞くのが楽しみになっていた。
強烈な口癖ではあるけれど、軽さの中に結婚したくても叶わないのはよく理解して言っている、というどことない奥ゆかしさみたいなものも隠されている気がした。
ついに、彼の大好きだったアイドルも卒業する日がきた。
彼女に会える最後の日に、彼はその言葉を決して口に出さなかった。
ただ、黙ってうなだれていた。
その姿を見て私はふと、彼が「絶対結婚しような!」と今後口に出すことはもう二度とないような、そんな気がした。
アイドルでもコンカフェでもホストでも、何でもそうだと思うのだけれど金銭の介在する関係というのは不思議である。週に何度も会っていても、友達ですらないからある日を境に会えなくなる。
彼は若かったので、推しと同級生として出会っていたら友達になれたと思うし、告白することもできた。どう転がるかはわからないけど付き合える可能性も別になくはないと思う。でもファンとして出会ったから、それはやってはいけないことになってしまう。
でもその代わりに突然「絶対結婚しような!」と言い出しても相手は嫌がらずに受け止めてくれる。もし推しじゃなくて友達だったら明日から無視されるかも知れない。
……ほんとうに不思議。
あれから何年か経って彼も少し大人になっているはずだ。
ちなみにその後彼はアイドル現場に来なくなったので、私はたぶんもう会うことはないと思う。
彼がふと昔の口癖を思い出した時に、あの頃の自分をバカだった、若かった、と笑い飛ばしたりせず、大切な言葉として胸の中にしまっておいてくれたら嬉しいな、と今では思っている。
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素敵なお題をありがとうございました。
ちなみにもっとすごいガチ恋口上という呪文みたいなものがあるので、もし気になる方は調べてみて下さい。