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【エッセイ】いろんなおとうさんがいる

父の日に出そうかなって思って忘れていた文章。

幼稚園の頃、放課後に友だち(仮にそらちゃん、とします)の家に遊びに行ったことがあります。

そらちゃんは大きな家に住んでいて、エプロンをつけたお母さんがホットケーキを焼いてくれました。
焼くときに「くまさんの型とねこちゃんの型はどっちがいい?」と聞かれたので、私はねこちゃんがいい、と答えました。

夕方になって2人でそらちゃんの部屋でお人形遊びをしていると急に
「ねえ、おとうさんに会いに行かない?」と言われました。
「いいよ」と言ったものの、私は不思議でした。

平日だというのに、そらちゃんのおとうさんはこんなに早く帰って来ているのでしょうか?

私はまだ子どもだったので、おとうさんというものはみんな朝はあくびをしながら新聞を読んだり、スーツを着て電車に乗ったり、月末になると暗い顔をして夜遅くに帰ってきたりするものかと思っていたのです。

友だちのおとうさんに会うのはきんちょうするなあ……と思いつつ階段を降りると、なにやらポンポン変な音がしています。

私が陰に隠れてのぞいていると、なんと広い本堂でつるつる頭のお坊さんが木魚を叩いてお経をよんでいました。
そらちゃんは「おとうさあーーん」とうれしそうに駆け寄ります。
お坊さんが振り向いて嬉しそうに笑いました。

私はおどろきました。
初めてお坊さんのおとうさんもいることを知ったからです。

どうもおとうさんというのは、おとうさんだけやっているわけではないらしい。
おどろいたことに、実は私のおとうさんもカイシャではおとうさんはやっていないようなのです。
小さな頃、大人というものは謎だらけでした。


それから友達や親戚のおとうさんを見るたびに観察をしてみることにしました。
すると、ゲームが好きなおとうさん、車が好きなおとうさん、絵がじょうずなおとうさん……いろんなおとうさんがいる、ということに気が付きました。

思い立って父に「おとうさんは、わたしと会う前は何をしていたの?」と聞いてみると「何してたって言われても……?」と困惑させてしまいました。

どうやら、なんと昔は私のおとうさんではなかったらしいのです。不思議な気がしました。

(ちなみに、のちのち観察していくと、おかあさんというのも色々らしいと気付きます。)









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