兵庫県庁内部告発文書問題について(1)
このnoteでは、今回の内部告発が公益通報者保護法が定める公益通報に該当するかどうか、また知事側の一連の行為は公益通報者保護法違反に該当するかどうかについて触れてみたいと思います。
見解を述べる前に、まず私の個人的意見として、今回の斎藤知事(幹部も含めて)の一連の対応は為政者として政治的に不適切であったと考えます。また、斎藤知事の県知事もしくは政治家としての資質や適正も問われる自体になっている事も指摘しておきたいと思います。
「公益通報」とは、①労働者等が、②役務提供先の不正行為を、③不正の目的でなく、④一定の通報先に通報することをいいます。(消費者庁公益通報ハンドブックより、以後HBとする)
①について(労働者等)
今回通報を行ったのは元西播磨県民局長であり、役務提供先(本件では兵庫県庁)の労働者に該当しますので特に問題はありません。
②について(役務提供先の不正行為)
「通報対象事実(不正行為)」とは、対象となる法律(及びこれに基づく命令)に違反する犯罪行為若しくは過料対象行為、又は最終的に刑罰若しくは過料につながる行為のことです。(HBより)
つまり、公益通報に該当する法律違反は定められた内容であり、現在493本の法律が対象となっています。
では、今回の内部告発文書において保護法が定める法律違反を告発していたかを見ていきたいと思います。今回の告発文は7項目の告発として記述されています。要約すると
(1) 片山安孝副知事(当時)が「ひょうご震災記念21世紀研究機構」の五百旗頭真理事長(故人)に、副理事長2人の解任を通告し、理事長の命を縮めさせた。
(2) 前回知事選で、県幹部4人が知人らに斎藤知事への投票依頼などの事前運動を行った。
(3) 知事が24年2月、商工会議所などに次の知事選での投票を依頼。
(4) 視察先企業から高級コーヒーメーカーなどを受け取った。
(5) 片山副知事(当時)らが商工会議所などに補助金カットをほのめかし、知事の政治資金パーティー券を大量購入させた。
(6) 23年11月の阪神・オリックス優勝パレードの資金集めで、片山副知事(当時)らが信用金庫への補助金を増額し、企業協賛金としてキックバックさせた。
(7) 知事による複数のパワハラ疑惑。
以上の告発となります。順に法律違反と通報対象事実に該当するかを見ていきます。
(1) 法律違反に該当せず 公益通報×
(2) 公職選挙法違反、地方公務員法違反 公益通報×
(3) 公職選挙法違反、地方公務員法違反 公益通報×
(4) 贈収賄の可能性 公益通報○
(5) ??? 公益通報?
(6) 横領罪の可能性 公益通報○
(7) 法律違反に該当せず 公益通報×
まず指摘しておきたいのが、公職選挙法違反、地方公務員法違反、パワハラは公益通報者保護法における通報対象事実に該当しません。これはあくまで保護法における公益通報に該当するかどうかという観点においてです。ですので(1)(2)(3)(7)は公益通報の通報対象事実では無い事は明確だと思います。(4)は贈収賄の可能性がありますので該当すると思われます。(5)に関してはどのような法律違反に該当するか正直分からないので「?」としました。(6)は横領罪の可能性がありますので該当します。
以上より、七つの疑惑と呼ばれる項目の内、公益通報に該当するのは2~3個であると思います。ここで、「少しでも公益通報に該当する内容が含まれていれば公益通報である」or「大半が公益通報に該当しないので公益通報としない」二つの考え方があると思います。
③について(不正の目的でなく)
不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的で通報した場合は、公益通報にはなりません。(HBより)
今回の元県民局長が告発した動機が上記のようなものであれば、公益通報に該当しないことになります。しかし、百条委員会に参考人として出席した山口利昭弁護士によれば、この「不正の目的」をもって公益通報としない事は難しい仰っておりました。
一方、斎藤知事はこの告発文書を誹謗中傷性の高い文書であると繰り返し述べています。また片山元副知事もメール調査にて「クーデター、革命、逃げ切る」等のやり取りを確認した事から政権転覆を図る不正の目的であるという風に百条委員会で述べていた様に記憶しておりますが、片山元副知事の説明を聞く限り、これは元西播磨県民局長のメールのやり取りから見つかったものでは無いように思います。また元西播磨県民局長は今回の告発以前に誹謗中傷の文書(8ファイル33ページ)を作成し、一部配布した事を百条委員会で指摘されていますので、他人を貶める事に常習犯的な印象はあります。
現状において、この「不正の目的」を証明するには証言や証拠が足りない様に思いますので、公益通報として否定するのは難しいと思います。
④について(一定の通報先に通報すること)
通報先は、(1)事業者内部、(2)権限を有する行政機関、(3)その他の事業者外部のいずれかです(HBより)。一般的には順番に1号通報、2号通報、3号通報と呼ばれています。
今回、元西播磨県民局長は県警、マスコミ、県議等、10箇所に配布を行っております。
配布先は百条委員会で明らかになっておりますので掲載します。
兵庫県警捜査二課、産経新聞、神戸新聞、NHK、朝日新聞、(県民連合)竹内英明県議、(自民)末松信介国会議員、(自民)山口晋平県議、(自民)黒川治県議、(自民)原テツアキ県議
以上となります。
まず兵庫県警捜査二課への送付は2号通報に該当します(追記:法令違反が犯罪行為の場合。)この件について8月20日に行われた県議会警察常任委員会にて、県警の藤森大輔・刑事部長は「記載内容や匿名の文書であることなどを総合的に考慮した結果、現状においては、公益通報としての受理には至っていない」と答弁しています。2号通報の要件として通報者の氏名又は名称、住所又は居所が必要になりますが、3月末には通報者の氏名が明らかになっていた事から、記載内容についても吟味したという発言になっています。もし、今回の告発文書が公益通報に当たるならば、現在を含めて5ヶ月以上、公益通報として受理しなかった県警の判断や責任(義務違反)もまた問われても良いと思います。
次にマスコミや県議らへの配布は3号通報に該当します。法律上は「通報対象事実の発生等を防止するために必要であると認められる者」ですので具体的に定められている訳ではありません。ですので、自民党県議に偏っている事は気になりますが、通報先として問題無いと思われます。
公益通報の要件をもう一度振り返ってみます。
「公益通報」とは、①労働者等が、②役務提供先の不正行為を、③不正の目的でなく、④一定の通報先に通報すること。
本件では①と④は要件を満たしていると判断出来ます。また、②と③については判断の分かれる所になる可能性があると思われます。今後、③については新しい証言や証拠も出てくるかも知れません。今回の内部告発が公益通報にあたるかどうか、皆様はどう思われるでしょうか?
最後に内部告発の真実相当性に少し触れてみたいと思います。
公益通報者保護法に基づく保護を受けるための要件として、「真実相当性」が必要になります。これは単なる憶測や伝聞等ではなく、通報内容が真実であることを裏付ける証拠や関係者による信用性の高い供述など、相当の根拠が必要である事を意味します。また、真実相当性は通報時の状況から判断されるべきで、後からの証拠や証言で変わるものではありません。この点は山口参考人が仰っております。ですから、マスコミ取材や百条委員会のアンケート等は基本的に真実相当性を補完するものでは無いと考えます。今回、元西播磨県民局長は3月12日に文書を作成し、配布したと言われておりますが、その後の4月1日に反論文を、また提出時は不明ですが7月19日に百条委員会で陳述書が公開されています。陳述書については事後的なものではありますが、これは真実相当性を判断する為の資料であると思います。さらに前提として、公益通報の対象となる通報対象事実は7つの疑惑のうち(4) (5) (6) になりますので、その範囲内での真実相当性の有無が問われるべきだと思います。
以上となりますが、現状のマスコミ報道や百条委員会では殆どが知事の(4)おねだりや(7)パワハラ疑惑がメインとなっており、そこに犯罪性を感じさせる内容は全く無いように思います。犯罪となりそうなのは(6)優勝パレードの件で、ここは一定の報道がされており、疑惑が持たれていると思います。
次回は知事側の一連の行為は公益通報者保護法違反に該当するかどうかについて述べたいと思います。
追記
公益通報者保護法は元々内部告発の判例を参考に法律で体系化されております。保護法の公益通報に当たらないからと言って、不利益処分をして良いという事には必ずしもなりません。ただその場合は民事裁判で決着される性質であると考えます。
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