カーテンだけが(禍話リライト)
猫の写真を撮ってたときの話なんですよ。
ぶらぶら散歩してたら、ある家の縁側に猫ちゃんがいて。
ボロボロの誰も住んでない廃屋みたいなとこだったんですけどね。
かわいいなぁ、なんて思ってカメラ向けてたら、背後から
「教えてあげようか」
そう声を掛けられたんです。
振り返ってみたら知らないおばあさんが立ってて。
「この辺には昔から住んでて詳しいからね、教えてあげるよ」って。
一瞬なんのことかな、って面食らったんですけど、
あぁ、このおばあさん、私が廃墟の写真を撮りに来たと思ってるのかな、って。
はぁ、お願いします、ってとりあえず返事したら、
「ここはね元はすごい名家で。明治の頃には自分の部下たちに、自分と同じ苗字を名乗らせることを許可したんだって」
「それはすごい家ですねぇ」
「今もいろいろ、手広く経営とかやってるみたいなのよ」
「はぁ。なら、どうしてここはこんな廃墟なんですか?」
「数年前に急に出ていっちゃってね。それ以来売りにも出さずに放置してるんだよ」
高く売れるときを見計らってるのかねぇ、なんて、おばあさんはひとりごちました。
はぁ、そうですか。
私は曖昧に返事をして。
でもね。
おばあさんは続けました。
変なんだけどね。
ここは誰も住んでないのにね。カーテンだけは新しくなっていくのよ。
え、
気持ち悪いこと言うな。このおばあさん。
そう思って振り返った廃屋には、汚れひとつない真っ白なカーテンが、朽ちた窓枠からこちらを覗いていました。
この記事は、禍話インフィニティ 第十六夜(2023/10/28配信)より「カーテンだけが」(59:25頃~)を再構成・加筆したものです。
記事タイトルはwiki(https://wikiwiki.jp/magabanasi/)からお借りしています。
※この記事は以前に筆者Twitter(https://x.com/kamozawaseri)にて掲載したリライトの再掲です。
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