根拠ない「任天堂寛容説」に思う事【パルワールド】

あまりにも最近の流れがキショすぎるので書こうかなと思います。


■今回の事件は特許権というよりパクリ・パロディの事件

 言及する必要もないんですがあまり特許権的な話ではありません。そもそも任天堂始め各ゲーム会社は「それ本当に革新的な発明ですか?」と言えるものまで極めて抽象的・膨大な範囲の特許権を有しており、各古参ゲーム会社がゲーム業界を焦土化できる程の権利を有しているため、「いつでもお互いを殺せる手段を持っている」以上は「殺す手段」問題にならず、「なぜ殺そうとするのか」しか問題にならないからです。
 ゲーム関係の特許権は核兵器に例えられますが、お互いが特許権という核の抑止力で牽制し合っているのが現状であり、新規参入ゲーム会社がその核兵器を有していない事を除けば、結局は核兵器を実際撃つか否かの問題でしかありません。

 で、訴状すら見てないのでアレですがまぁほぼ確実に任天堂が勝つと思います。訴えれば勝てる、そういう理不尽なものが特許権なので。私は特許権は廃絶するか大幅に縮小すべきと思ってますが、現状として特許権は持ってれば勝てるものである以上、もうどうしようもないです。
 強力すぎてお互いが撃つのを躊躇い、もはや使うか否かが良心だけに左右されているゲームの特許権なんて、廃絶か大幅縮小以外ないと思うんですが。全員が特許砲撃ったら文化が消滅する部分も含めて核兵器によく似てるので、核兵器は廃絶訴えるのに特許法は廃絶訴えないってのが、理解できませんね正直。

 少なくとも特許制度は「発明と産業を促進する為」に作られたというなら、ライセンス料請求権(損害賠償請求権)だけ認めればいい話で、差し止め請求権(物権的請求権)まで認めてるのは意味不明です。
 差し止め請求を認めるって事は、恣意的に誰にライセンス認めて誰にライセンス認めないかを「特許権者が」判断していい
って事になるけど、著作権ならともかく、特許権にここまで認めてんのは、文化産業発展の見地から本当に理解不能。特許技術に公開を義務付け、共有の知的財産だっつってんのと矛盾してるでしょ。
 
ゲーム業界の特許争い(コロプラの件含む)で、ライセンス料で解決すべきで、差し止めまで行うのは如何なものかって懸念してる弁理士いたけど、だったらそもそも特許法が差し止め認めてる事がまずおかしいよ。司法関係者で、ライセンス料請求ならともかく、差し止め請求を是としてる裁判官いるんか?膨大な数のプレイヤーがゲーム配信停止で被害受ける差し止め判決を、書きたい裁判官いないでしょ。そもそも表現物に対する差し止め判決自体、場合によっては表現の自由を侵害し違憲であるとか言われるのに。

 核兵器に極めて類似してるので基本は撃つ奴いたら批判的考察から入らないといけないんですが、核兵器撃った奴に基本擁護から入る人が大半ってのが、本当に教養ない世の中になったなと常々思ってます。

※ 米国では、著作権が「アイデア」でなく「表現物自体」を守っている事を前提に、表現の自由は「自己の」表現の自由を第一義的に保障したものである事から、「他人の表現物そのもの」を用いて表現する事(つまり他人の表現物コントロール権を侵害した表現)は、当然に表現の自由100%の恩恵を受けられるものではない(結果、差し止め請求はやむを得ない)という理屈も見られるようです(以下の39頁)。

https://www.lawschool.tsukuba.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2019/02/6739f64e4aa59d2433972d39cc15d6a2.pdf

 同じ理屈で言ったら、表現物自体ではなくその前提の「アイデア」、しかも財産権でしかない特許権を理由に、ライセンス料支払いを認めている相手に対し、無制限に表現物への差し止めを認めてよいかは、疑問が残ります。


■無限に延長し続ける任天堂の特許期間

 本来、特許制度は「アイデア自体は共有の財産とする」という理念に基づき、その公開を義務付け、20年という著作権より短い期間しか存続させず、力を制限しているものです(著作権は個人であれば死後70年という長期間存続する)。
 ところが、今回パルワールド・任天堂関係の特許もそうなんですが、元々のアイデアから派生したアイデアで特許をとることが可能であり、これを続ける限り半永久的に特許の影響力を保持し続ける事が出来ます。

 ポケモンは30年前のゲームなので、原初特許は失効している可能性が高く、ほぼフリーアイデア素材になってるんですが、パルワ側はそれを安易に誤認した可能性もあります。

 今回、任天堂が訴えた根拠の特許はこれでないかと噂されてますが(巷で噂されてる特許は提訴直前に取得した分割特許であり、元々の原特許はこっちの方です)、

 出願日が2021年12月、登録日が2023年12月なので、審査に相当時間がかかってますが、普通こんなものだと思います。出願時期から見て、初のオープンワールドアクションジャンルのポケモンであるLEGENDSアルセウス(2022年発売)の特許だったと推測されます。
 特許内容は大まかにいえば「オープンワールド3Dで照準を定めて捕獲アイテムを投擲し、対象を捕獲し、所有するアイデア」です。2021年12月時点で、これが本当に新規性・進歩性のあるアイデアだったかは疑問が残りますが(本当にこういう要素のあるゲームって世界中探しても存在しなかったの?)、特許というのは通ってしまえば勝ちなので、どうにもならないです。

 ざっと調べた限り、少なくとも2016年時点でGTA5にポケモンmodが存在し、モンスターボールの照準を合わせて投擲し、市民を捕獲できるものが存在するため、これを裁判で提出された場合、少なくとも上記特許部分について任天堂は新規性・進歩性を否定されて負けるのでは?という疑念があります。

 任天堂が訴訟で勝つためには、少なくともGTA mod等の違法・脱法パロディも含め、全ての外部作品より「先に」、パルワールドに勝つ特許を出願している必要があります。

 これ以外にパルワールドに勝てる古い特許があれば別ですが、任天堂は自社で実現してない商品の特許は取っていないイメージがあります。本来単なるRPGに過ぎなかったポケモンを、オープンワールドアクションで実現するアイデアは、2022年の公式LEGENDSアルセウスより他人の方が遥かに早かったため、他に全く別のポケモンに無関係な特許があるのかもしれないという印象です。株式会社ポケモンだけでなく任天堂と共同原告になっているのは、おそらく株式会社ポケモンの保有する特許では勝てないからでしょう。

 モンスターを捕獲し、多数のモンスターを図鑑に並べ、複雑な相性を把握し、使い分け、RPGとして整理する、この初代ポケットモンスターのアイデアが、特許に値するほど新規性・進歩性があるものである事は、疑いようがないです。

 しかし、3Dゲームが出始めた時点で、3次元空間でキャラクター捕獲を実現しようとすれば、上記のような動作で対象キャラを捕獲・所有するのは誰でも思いつくものであって、これを他社が特許申請しなかった理由を挙げるなら「単に任天堂が怖いから」に他なりません。
 特許要件の一つである「新規性」というのは、発表さえ妨害できればいいわけですから、「思いつけないから発表できない」のでなく「思いつくけど任天堂が怖いから発表できない」というのでも新規性要件を満たしてしまうわけです。

 こういう風に、知財関係の訴訟圧力により他社の派生・類似アイデアの特許申請を事実上妨害し、繰り返し派生アイデアの特許を自社で取得する事で無制限に特許期間を延長し続ける、という行為を、任天堂は日常的にやっているものと推測されます。
 これこそが特許法の期間制限に対する脱法行為ではないか?これを認めたら、発明を共有財産として、20年経てばそのアイデアを誰でも使ってよいと定めた特許法の趣旨を思い切り踏みにじっているような気がします。これが認められるなら、発明は20年経っても共有のアイデアになりません。
 パルワやコロプラを「著作権法や特許法への脱法行為でありゴロ」というなら、任天堂のこの無制限に派生アイデアの特許をとり続ける行為を脱法行為と批判しないのが、よく理解できません。

 「モンスターを捕獲、所有して戦わせる」というポケモンのコア部分の特許は、1996年のポケモン発売日に新規性を失い、出願から20年経てばもはや「皆の物」となる事を免れない発明のはずです。それが、その挙動をオープンワールド3Dに書き起こしただけで、オープンワールドゲーム自体は任天堂の発明か否か極めて疑問なのに、発売から25年後に再度特許が取れるなら、特許期間の20年制限なんて無意味になりませんか
 1990年代に、未来のゲームが3D化・オープンワールド化する事を見越して特許出願したなら、新規性・進歩性ある発明になりえます。でもこれが出願されたの2021年12月なんですよ。いい加減大半のゲームが3D化し、オープンワールドゲームが溢れていたはずの。

 実際にパルワに対する訴状に載っていた特許がこれかはわかりません。しかしこの特許を任天堂が2021年12月に出願し、登録されてしまったことは事実なので、こんな方法を使って特許期間を再度2041年まで延長してしまったことは間違いない事実です。

 厳しい事を言いますが、特許制度は「新しい発明」を促し、奨励する為の制度であり、30年前の発明やIPを一生擦るような行為を保護するものではありません。そんな事が認められたら、皆新しい発明や創造を放棄してしまいます。

 アメリカの特許は自分の発明についてしか出願できないんですが、日本はその制限がないので、「自分が思いついたものである」事を立証する必要が一切なく、結果、こういう風に「派生アイデアで永久に関連特許期間を延長する」という事もやりやすくなっている気はします。
 そもそもアメリカではこういう抽象的アイデアで特許は取れないといわれてるので、バカみたいな考えで特許とって文化発展を妨害できる日本の特許制度が終わってるだけなのかもしれません。

 何の発明でも創作でもないものにただ多数弁理士がハイエナみたいに特許とりまくるだけのしょうもないザル領域に、何の創造性と文化性があるんですかね?

 こう考えると、コロプラについても、任天堂の派生アイデアの特許を独占取得し続けて永久に特許期間を延長する手法は、他社の特許申請行為を妨害しなければ成り立たないので、その為に訴えたのではないかという疑念が湧きます。
 ただ、これは特許法を前提とした知財に強い企業ならどこもやってる事であり、任天堂だけがやってる事ではないです。ただ一番キショいのは、自社の利益の為に他社の特許申請を妨害する行為を、「業界の為である」と意味不明な情報流してまで擁護する行為です。
 本来、大企業がその資金力を利用して訴訟連発する行為は、市民から非難されなければならない行為です。任天堂にだけその市民の監視が働かないなら、市民の教養として単純に終わってると感じるだけです。

 後述しますが「Steamにはポケモンライクのゲームが多数溢れてるから任天堂は寛容なんだ!」という意味不明なご主張についても、単純に「初代」ポケモンの原初的なアイデア部分は特許切れになってるからである可能性が高いです。


■任天堂がパロディ・パクリ・二次創作に寛容だった事は一度もない

 最近の任天堂関係者でも法律関係者でもないのに専門家ヅラして語る方々みんな口を揃えて「任天堂は本来寛容なんだけど~」という枕言葉をつけているんですが、何を根拠に?

 知ってる人は知ってる話ですが、任天堂はポケモン同人誌事件といって、全年齢向け人×ポケモン同人誌を刑事告訴した事がある唯一のゲーム会社です。民事や差し止め請求だけならまだしも同人誌を刑事告訴したなんて後にも先にも任天堂だけなので、この時点で「任天堂はミッキーマウスよりパロディに厳しい」という評価になるはずなんですが、なぜか任天堂が寛容だと根拠なく言い続ける謎の人が多数いるんだよね。
 しかもこれで逮捕された同人作家にインタビューとった有志の人がいて、完全に任天堂側は無警告で、突然、朝警察が逮捕しに来た事が語られてます。
 同人誌や二次創作の歴史を研究してる研究者だったら「任天堂がパロディやパクリに寛容だ」なんて絶対言わないと思うんだけどね。

 パロディや二次創作に寛容な企業というのは、言うまでもなく二次創作ガイドラインを出している企業です。それより寛容な会社なんてありません。任天堂は過去一度も二次創作ガイドライン出してませんよね?

 ポケモン同人誌事件については有志が任天堂に問い合わせた事があり、明確な回答を得ています。

 これを読んだ上で言える事は

  • 任天堂は個人間の頒布程度なら許すが、即売会の小規模頒布すら許さない

  • キャラクターイメージを重視している(普通に考えれば、それを変異させるパロディ・二次創作には基本的に不寛容)

  • 特に、子供に見せられない表現には容赦しない

  • 任天堂ファンからの通報を重視する

 これについて、2010年の株主総会質疑で二次創作について質問された事で「修正された」という人もいますが、核心は全く変わっておらず、

  • キャラクターイメージを落とすパロディ・二次創作は認めない

  • 通報窓口で対応する(結局、任天堂ファンのお気持ちを害したかが全て)

  • パロディの有償・無償の判断は一切言及がない(有償でも許すとは一言も言っていない)、どころか、基本的にはネット上の無償ファンアートのみを想定している

といった話でしかないと思われます。

 ここで多数の二次創作ガイドラインを読んできた私の雑感ですが、ガイドラインやそれに類する公式回答にはこの程度のランク付けがあります

  1. 個人間の配布すら許さない(流石にこのレベルのは滅多に見ない)

  2. 個人間の配布or完全無償なら許すが、キャラクターイメージを落とすと判断すれば許さない(普通に厳しい)←任天堂のライン

  3. 即売会での小規模販売頒布なら許す(ある程度優しい)

  4. 同人誌に限り通販も許す(かなり優しい)←一般に二次創作に優しい企業のライン

  5. 「3.」に加え、性表現も明言はしないがOK(超優しい界隈)

  6. 一部アプリ以外は利益上げるのも自由。営利企業も公式に許可とればOK←東方等、特殊な自由領域

 こういう分類をすると、任天堂が容認しているパロディ・二次創作のラインは、ガイドラインまで出して二次創作を奨励してる他の企業に比べると相当に厳しく、到底「パロディに寛容な会社」等とは言えない事が分かります。

 こういう指摘すると「任天堂作品の同人誌も通販で売られてるだろ!」とか言い出す人がいるんですが、「出回ってる」のと「公式が黙認してる」は全く別です。少なくとも任天堂が過去の経緯からしても任天堂ファンからの通報に敏感になっている事、はっきり子供から見たキャラクターイメージを崩す事は許さないと言ってる事からすれば、「ファン」が通報すれば任天堂は動く可能性があると思っています。

 あと「著作権侵害の同人誌と特許権のパクリゲーは違うだろ!」とか言い出す人でそうなんですが私は逆に似てると思いますね。なぜなら同人誌はそもそも著作権侵害か微妙だからです。漫画家が違うので絵柄全然似てないのに、果たして服装が似てるだけで複製権侵害と言えるのか、元々の衣服のデザインは独創的なのか、事案によると思います。著作権侵害かどうか微妙という点で、二次創作とパクリゲーは似ていますね。

 ただ、パロディや二次創作に寛容な会社だろうとそうでなかろうと、基本的には原権利者が全てなんだから、パクリやパロディや二次創作は大本から怒られたら「すみませんでした」で土下座して作品公開やめる以外ないんですよ。あえていうなら、どう考えても歴史的に見てパロディに寛容だった事がない任天堂をパクったってのが「嗅覚がない」だけです。

 何とかバニアとか、ソウルライクとか、ヴァンサバライクとか、スイカライクとか、何でもかんでもパクってパクられの1990年代みたいな事をSteamやインディーズで繰り返してるから感覚マヒしてたんだろうけど、任天堂はないわ。寛容とは思えないもの。


■知ったかぶり顔で「こうしてれば良かった」と述べる気持ち悪さ

 一番害悪なのはこの手の「事件」が起きた時に「私ならこうできる!」「もうちょっとこうできたはず!」と何の力も責任もない外野サイドから恥ずかしげもなく口にするしょうもない人々だなと思います。
 何の事件でもそうだけど、あなた程度の力で防げるなら訴訟になってません。貴方なんかより遥かに優秀で業界分かってるソニーとかの関係者が全員必要だと思う確認をしたけど訴えられたんだよ?貴方どういう立場なん?任天堂の社長なんか?ソニーの社長なんか?ポケットペアの社長なんか?問題を過小評価して「俺なら問題解決できた」なんて口にする奴は、どっかで取り返しつかないミス犯すと思うよ。

■例1.きちんと事前に話し合いしてれば良かった!

 何を根拠に?てか貴方弁護士か何かなん?そもそも貴方は任天堂と他ゲーム会社の、あるいは任天堂と他ゲーム会社の水面下のやり取りの、何を知ってるの?

 上に書いたけど、パロディは基本的に「公式に怒られたら終わり」なんですよ。それ以外ないんです。「100%怒られずに済む方法」なんかないんですよ。二次創作界隈でもトラブルが表出すると同じように「こうすれば怒られずに済んだ!」とか言う人間出るけど全員バカだと思ってます。
 物知り顔で「俺は詳しいんだけどこうすればよかったんだぜ!」って根拠なく言えば、皆から賞賛の言葉と「いいね」もらえて気持ち良くなれますからね。承認欲求モンスターそのものだけど滅茶苦茶気色悪いです。

 しかも任天堂自身が「自社のキャライメージを壊す表現は許さない」とはっきり言ってる以上、任天堂が怒った理由は「売れ過ぎたから」とか「ポケモン似の生物を屠殺or酷使or奴隷化するというゴア表現が任天堂ファンのお気持ちを害したから(綺麗な言葉でいうならポケモンのブランドイメージを害した)」だと思われるので、交渉しても任天堂から許諾得られる可能性はゼロです。

■例2.他のゲーム会社はきちんと任天堂と調整してる!

 ごめん。繰り返すけど何を根拠に?龍が如く7のドラゴンカートについて、公式のラジオ番組で言葉濁されてた事からも明らかだし、そもそもドラゴンカートは無許可とソース残ってるらしいから、セガとかの大会社ですら別に交渉や事前調整なんかしてないと思うよ。

 Steamに多数ポケモンライクのインディーズゲーがある事についても調整交渉してるわけじゃなく「単に弱小相手に訴訟起こすのが面倒臭い」「訴訟乱発すると市民から反感を買う」という理由で控えてるだけで、黙認してるわけじゃ全くないと思います。
 そもそも「大多数のポケモンライクゲーは訴えられてないから任天堂は寛容なんだ!」って、それ「任天堂から何も言われてないからパルワールドは大丈夫なんだ!」ってポケットペアが言ってた事と何が違うの?

 任天堂ファンのお気持ちさえ害してなければ、特許権で訴えられても土下座してライセンス料支払えば許してもらえる可能性あるので、事前に調整する必要はないでしょう。それなのに何で他の会社がマトモに事前調整してると思ってるの?

 そういう、「私の信じる寛容な任天堂様」という歪んだ認知があるから「訴えられない奴にはきちんと理由があるんだ」という妄信に繋がるんだと思うけど、あえて言うなら「任天堂ファンのお気持ちを害さなかったから」位の理由しかないよ。害したら訴えられると思うけどね。

 そもそも上に書いたように「初代」ポケモンに関する原初的アイデア部分の特許は失効しているので、特に初代ポケモンに完全に寄せてドット絵とレトロデザインでポケモン系システムを実装しているポケモンライクゲーについては、任天堂としては訴えようがないです。訴えられないから訴えていないのであって、任天堂が寛容だからでは全くないですね。

 大体、インディーズで多数溢れるポケモンライクゲーの存在を理由に「任天堂は寛容なんだ!」と言っていいなら、コナミが権利保持してるはずのキャッスルバニアライクゲーはどう説明するの?いつまで、「任天堂がやれば業界の為の英雄、コナミがやれば特許ゴロ」という意味不明な理屈を続けるの?

■例3.任天堂は業界全体の事を考えて訴えているので、業界を敵に回さなければ大丈夫!

 意味不明。任天堂はその特許権を踏まずにゲーム開発できない位の広範かつ抽象的な特許を有しているので、任天堂に直接関係ない相手を訴える事も可能ですが、任天堂が自社の利益にならない相手を訴えた事なんて一度たりともないと思うんですが。
 例のコロプラの件についても「コロプラの特許ゴロ行為をやめさせるため」だったのであれば和解金(ライセンス料)等受け取らず、「特許ビジネスをやめさせる」という和解になるはずですが、結局普通に和解ライセンス料を受け取り、コロプラ側の(任天堂以外に対する)特許関連行為についてはお咎め無しになっています。

 そもそもコロプラがライセンス料支払わないからという謎の理由で途中で損害賠償額引き上げてませんでしたか?完全にライセンス料目的の訴訟でしかなかったし、何を根拠に「コロプラの特許ゴロ行為をやめさせるための訴訟だった」と言ってるのか理解不能なんですが…。結局、この賠償額引き上げは裁判所から認められず(既にコロプラ側はぷにコンの操作方法を任天堂の特許に抵触しないよう変えていたので)、当初請求額を下回る和解額になってるんですが。
 そもそもスタートラインからデマなんですが、コロプラは「ぷにコン」の特許を取得していません。界隈の話では特許申請したが落ちたのではと推測されています。

 実際はコロプラがぷにコンの特許をとったから任天堂が動いたのではなく、コロプラ側が、「ぷにコンの特許を出願中なので、今後、類似UIの新規実装には注意して下さい」と任天堂含めた他社に通知したのではないかと言われてます。「ライセンス料を請求した」というのは意味不明です。なぜなら他社が既に実装してるUIの時点で新規性がないので、既存の他社UIには特許権主張できないしライセンス料の請求も出来ないからです。そんな真似したら、新規性を隠して取得した違法な特許になってしまうので。
 当時やたら過激な特許信者だったコロプラの弁理士が、任天堂を倒せるとコロプラ社長に進言したという噂が残っていますが、未遂であるため、コロプラは何も他社に請求してません。

 そもそも、これ全部裏の噂でしかなく、コロプラが直接消費者に向けて広報した事実ではありません。全部ウソで、単に一方的に任天堂がコロプラを訴えただけの可能性もあるわけです。任天堂に都合のいい噂話を流してくれる人は大量にいますからね。
 コロプラは結局誰にも特許料を請求しておらず、ぷにコンの特許自体取れなかったから未遂に終わったのに、任天堂に33億円支払ったわけです。これの何が業界の為の戦いなの?

 大体、特許は取得した事を隠しておいて、さんざんその技術が外部で使われた後、突然後から特許権を主張した方が遥かにダメージを与えられるし多額のライセンス料を徴収できるので、取得してもいない出願中の特許を他会社に自分から通知するなんて、バカとしか思えません。普通に考えたら、秘密裡に特許を出願する方がよっぽど害悪ですし、だからこそ任天堂含め他会社は、自分が出願している特許を外部に教えないのです。
 特許出願中であることを外部に通知する方がよっぽど誠実なのに、これを通知した行為を批判してる「業界人」とやらは意味不明です。

 任天堂が特許とれる以上、他社もカウンター特許取れるのは当然の事であって、何も非難される行為じゃありません。任天堂だって、今回のパルワ関係特許もそうですが「オープンワールドゲーで捕獲アイテムの照準を合わせて対象キャラを捕獲・所有するアイデア」という、30年前の初代ポケモン特許が失効してる以上誰でも思いつくような3D空間派生アイデアで特許とってるわけですから、コロプラが特許ゴロだというなら任天堂も同じく特許ゴロなはずです。

 コロプラがVR特許取りまくったせいでVRの発展が遅れたとかいうデマについても、VR関係者が否定してたよね?名誉棄損罪になるよ、信者さんのそういう言動。
 
そもそも、任天堂はゲーム業界の為に特許を取得している!が事実なら、なぜ任天堂はそれらVRの特許をコロプラより先に取っておいてくれなかったの?

 そもそも任天堂自身が業界の為じゃなく「自社の知的財産権とブランドを守る為に訴えます」ってはっきり声明出してるのに、これ読んだ上で「任天堂は自社の利益の為じゃなく業界全体の為に訴えてる」なんて、流石に「信者」と言われてもやむを得ないと思いますけど。

 任天堂は自社を退職したクリエイターのゲームを著作権侵害で訴えるというブラック企業そのものな訴訟を起こした事がある(ティアリングサーガ訴訟。ファイアーエムブレムの開発者が退職後にFE類似のゲームを作ったところ、訴えられた)んですが、これのどこに「ゲーム業界を守る」という理念があったんですか?ちなみにこの訴訟は著作権侵害部分について任天堂が敗訴していますけど、結局ティアリングサーガ側は「任天堂を怒らせた」からかアーカイブスの流通から排除されるなどの被害を受けています。

■例4.任天堂は自由なゲーム開発を守る為に特許取得してるから、それを害さなければ大丈夫!

 ごめん、この手の発言腐るほど流れてたけど任天堂側の発言ソースどれ?

 特許制度があまりに理不尽である以上、どこの会社も自社を守る為に大量の特許を取得するのは当然やる話で(防衛出願)、でもそれを実際行使したら大変な事になるので、その特許権を普段行使しない(ムカつけば行使する)というのは任天堂以外もどこでもやってる話なんだけど、何で任天堂がやった時だけ「自由なゲーム開発を守る為に特許取得してる」という意味不明な話になるの?

 任天堂は過去には「儲けの方程式」なんて言われるように玩具問屋と手を組んで流通を支配し、ゲームソフトの価格が1本1万円を優に超える値段になっていた事すらありました。完全に消費者の敵としか思えないんですが、ソニーとプレステがこれを破壊した事で、ゲームソフトの価格が5000円前後まで低下した歴史があります。

 この時のスクウェアと任天堂の戦争についても、どう考えてもスクウェアの言い分のが正論なのに、まるで「スジ通さなかったスクウェアが悪い」みたいな歪んだ話がそこら中に書かれてるわけです。ヤクザの業界かよ。
 結局、その「スジ」を通す事になった結果、ゲームメーカーは「単に義理を尽くす為だけに」消費者の利便性を無視して自社ソフトを任天堂ハードでも一部出す事になったわけですが、この一連の戦争のどの辺に、ゲーム業界全体を考えた部分があるの?「忖度で」自社ハードでソフト出すよう圧力かけて、ゲームメーカーの自由なハード選択を妨害するのは独禁法違反では?

 まぁそもそも任天堂は別件とはいえ海外合わせると複数回独禁法違反で経済制裁受けてるんですが…。
 「国内シェアトップ3のハードメーカーがソフトメーカーに対して取引拒絶を行った(しかも拒絶理由が「うちのハードと流通でソフトを出す便宜をはからなかったから」というゴリゴリ違法な強要行為)」という話を聞いて、「独禁法違反ですよね?」という感想より先に「ハードメーカーを怒らせたらこうなるw」とか教訓みたいに語ってる時点で、義務教育の敗北ですよ、この国。教養ゼロですやん。バカみたいに愛国心教育するより、法教育を学校で教える方が先では?

 徹頭徹尾、任天堂は自社利益のための活動しかしていないし、他のゲーム会社だってそうなんですが、何で任天堂の時だけ「ゲーム業界全体の事を考えた活動」になるのか意味不明。繰り返すけど自社を退職したクリエイターを訴えてるんだよ?

 クリエイター個人が、企業を退職した後にも、類似ゲームを作れる事は、ゲーム業界の創作文化発展の為にも、労働者保護の為にも極めて重要な事だと思われますが、ティアリングサーガ訴訟ってそれを潰しかねないものだったんですよ。結局、任天堂は著作権部分について敗訴してるんですが。
 その後、最近でも幻想水滸伝に対する百英雄伝(幻想水滸伝ライク)とか、退職クリエイターによる類似作品が作られていますが、任天堂がティアリングサーガ訴訟で勝っていたらこういうのは作れなかったので、著作権部分について敗訴してくれて本当に良かったと思います。任天堂は最高裁まで上告してましたが。

 従業員が職務発明(特許)を行った場合、企業は従業員に対し「相当の対価」を支払わなくてはならないとされますが、職務著作(創作行為)についてはこのような慣習がなく、無条件・無対価で従業員の創作物の著作権は会社側に帰属してしまう為、退職後にクリエイターが類似の著作物を作れない、とするのは、極めて理不尽だしクリエイター労働者の保護にも欠けるのです。

 それにもかかわらず、任天堂は退職クリエイターの類似作品製作に訴訟を起こして、著作権侵害について敗訴したわけですから、これがどうゲーム開発分野の発展に寄与するのか、意味不明です。というかゲーム開発分野の発展を阻害する行為としか言えません。

■例5.ポケットペアは外注や外部に酷い態度をとらなければ訴えられなかった!

 論外。ポケットペアがクズなのは疑いようがないですが、クズ野郎相手だからと言って核兵器撃っていい事にはならないというのが普通の文化人の反応です。どういう教育受けてきたの。

 そもそも、不快な表現があるなら見なければいい、もしくは批判すればいい話で、「その表現者がクズだから訴えられて破滅して欲しい」なんて願うのは常軌を逸してるか、教養を欠いてると思うんですけど、私おかしい事言ってます?

 ある程度企業の組織的明確な基準で裁くならまだしも、「任天堂ファンのお気持ちを害したか」なんていうフワっとした地雷原で活動させられるの、普通に怖いよ。

 「こういうパクリビジネスは駄目なんだという先例を作るために任天堂は戦ってる!よくやった!」という意味不明なご意見もたくさん見たけど、そもそもこんなバカみたいに広範な特許持ってるの任天堂だけなんだから、ポケットペアみたいな方々は「じゃぁ任天堂以外のゲームをパクろう」ってなるだけだよ。任天堂は自社以外の為に訴えた事がないんだから。

 つい先月ブルプロに「他のオンラインゲームをパクらなかったからサ終になったんだ!」って言っておいて、明らかにWoWをパクって成功したFF14という前例を無視して、実際にパクって炎上したら袋叩きって、そりゃないわ。こんなバカな話してるから変なオリジナリティに走って失敗するゲームが多数出るんでしょ。

 一般に企業資金をアテにして訴訟乱発する行為は企業倫理として控えなければならないので、社会的に(任天堂ファンに)叩かれて炎上してる相手を訴える方が遥かにリーズナブルですよ。賠償金も取れるしファンは称えてくれる。全部自社の利益の為にやってるのに、なぜか「業界の為に戦ってる」と意味不明な情報まで流してくれる。至れり尽くせりですね。

 結局、そもそも任天堂はパロディに寛容な会社などではなく、売れ過ぎれば当然に訴えられるので、ポケットペアが誠実な態度とってれば訴えられなかったなんてのは、根拠のない妄想も甚だしいです。

 大体、任天堂擁護側の業界人すら、パルワールドについて「ポケットペアの言動は酷いと思うけど、任天堂は優しいから訴えないんじゃないかな」とか語ってたんですよ。それが訴えた途端に「やはり虎の尾を踏みました!」と手のひら返しでしょう。どうなってんの。

 そもそも、任天堂はパルワールドがリリースされた直後から、上に載せた「オープンワールド3Dで捕獲アイテムの照準を合わせ捕獲するアイデア」の分割特許出願(実際に訴える為に保有する特許範囲を狭め、具体化する行為)を行っているので、かなり早い段階、ポケットペア関係者の酷い言動が明らかになる前から、訴える準備をしていたと思われます。なのでポケットペアの言動、全く関係ないです。

■例6.愛のあるパロディなら訴えられなかった!

 逮捕されたポケモンの全年齢向け同人誌作者は、ポケモンを愛してたと思いますよ。単に「任天堂ファンのお気持ちを害した」(躍起になって同人誌を任天堂に通報した奴がいた)だけで。


■二次創作・パロディに寛容な界隈でやりたいなら任天堂はやめとけ

 普通にパロディ・二次創作にガイドライン出して寛容な界隈は他にあるんで、任天堂が「寛容!」とかいうの、普通に他のもっと寛容なゲーム会社がかわいそうです。
 
つか流通販路をスクウェアからバカにされただけでヘソ曲げたり、何度も京都の本社に通って交渉しなきゃ社長にアポすら取れなかったり、マトモな他会社の上層部からは「任天堂の怖い話」しか出てこんのに、何でエンドユーザーだけが「寛容」みたいな話を延々繰り返してるのか。任天堂ファンの敵絶対殺すマンである任天堂は任天堂ファンには優しいが、他のゲーム会社に優しかった事なんてないと思うんだけどな。

 一般論から言って、「ファン」の方々が公式を根拠なく妄信したり、他社を貶めるようなデマや不確定情報を流してでも擁護するような界隈は、寛容性が低い可能性が高いと思います。それを公式が咎めたり、二次創作の大切さを説くならまだしも、一緒になって「キャラクターイメージを大事にしてる」「ファンからの通報があれば対応する」なんて言っちゃう界隈は、一般的な話をすれば危ないという感想です。
 二次創作は新たな文化や作家が生まれる大事な場所だからある程度容認しなきゃいけないとか、そういう事を明言する公式もあるわけですけど。ニトロプラスが二次創作ガイドラインを出した時、10万円以上の利益を得る行為は全面的に許諾が必要とあったのを、内部の作家さんから進言があったらしく、同人誌だけは例外的に、ある程度の利益を許容するとの内容に差し替えられた経緯があります。

 任天堂に関しては大本がオリジナリティにこだわる社風というのもあり、ファン層でも「パクリやパロディから成長してオリジナリティを見出す」という作り手の在り方を、認められない人が多いんじゃないか。ポケモン同人誌事件の時からそうだけど、解釈違いの二次創作を見た時に、平然と公式に通報連打するような人が多い界隈は、パロディを育ててくれるような場所ではないと思うよ。
 少なくともティアリングサーガ訴訟の時、その人本人がファイアーエムブレムの開発者だったのに、FEのパクリだなんだと非難する人が大勢いた事からも、任天堂ファン界隈はパロディに異様に厳しい界隈という認識です。
 任天堂がこういう風にパロディや二次創作に寛容なコメントを出す事は、今後もないんじゃないかな。

 少なくとも二次創作で同人誌はともかくゲームは認めないガイドラインも多いし、同人・インディーズと偽って実際には営利企業のパロディをやる事はどの界隈でも認められないとは思うけど、それとは別にそもそもパロディやるのに寛容性がない任天堂界隈選ぶのはセンスないなって思います。

 何か本当に、「真実」より「信じたい事実」ばかりがバズるようになるしょうもない時代になったと本当に思います。「任天堂は東方のポケモンライクゲーを容認してた!」とか、その東方ゲー開発したわけでもない人間が又聞きで言いだしたりするの。終わってるよ。そのサークルに来た人間が任天堂の身分証を出したの?本当に「オリジナルで作れば認める」って言ったの?どういうニュアンスで言ったの?そら、ポケモンライクゲー作った側の人間は自分に都合よく脚色して言うでしょうよ。でもそれ、ポケットペアの言ってた事と何が違うの?
 こういう情報ばっかりバズるの。「真実」より「都合が良くて信じたい事実」の方が気持ちがいいから。そもそも繰り返すように30年前の初代ポケモンの構成部分の特許は切れてるんですよ。

 市民って、本来バカみたいに理不尽で凶悪な兵器が、暴走しないように監視するために教養を得てきたんじゃなかったんかなぁ?

 結局知財の裁判なんて、各企業がムカつく相手に経済的損害を与えて自社の利益にしたい以外の何者でもなく、そもそも任天堂自身も「自社ブランド守る為にやってます」と声明出し、正義もクソもないのに、まるで業界全体の利益や正義の為に戦ってるみたいに言っちゃうのは、流石にちょっと認知歪み過ぎじゃないかという感想です。

 肝に銘じておきたいですね。

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