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兄ィ

本項を語るにあたって、もとより私にはテーマなんてものは存在しません。思いついたことをパーパーパーパー好き勝手に喋くっていくだけなのです。

私は凡人として、折に触れて感じたことを申し上げようと思います。

今後ももしかすると登場するかもしれない人物についてあらかじめお伝えしますと、私が勝手に「兄ィ」といって慕っている人物があります。King gnuの常田大希と俳優の斎藤工を足して2で割っておいて、ちょっと一服してからやおら0を掛けちゃったような幻の美青年でして。

で、この兄ィはたいへんな能筆家であります。その由縁は中国書画に精通し、その余沢に与りながら自ら東洋の美を改めて世に伝えようとする志士なのです。

「水清ければ魚棲まず。ヒロシよ、世の理は孤山の頂きに存するものにあらず」

てんで、しばしば強制連行せらるるキャバクラにおいて、私はその神髄を学びとろうという心意気でして。

インド外道六師の教えにおいては……なんて悪酔いしそうな話を経てより、さあ、お勘定だと。すると兄ィはスッとカードを取り出し、決済のサインをカッ、カチ、カチーンと美しく書くんですね。するとお姐さんたちから黄色い声を浴びるという。私はそれを見て、ウフフ……またまたお戯れを。みたいな、さりげない従者の振る舞いをするんです。

キャア、また来て、くんなましッ

なんて、そんな見送りの声を背に重い扉が閉まったとき、私はさしったりと自分の財布をペリペリッと開いて割り分のお札を兄ィに差し出すという。ひとえに、ネズミ男たちの邯鄲の夢にございます。

この伊達っぷりを考えましたらこの兄ィなんぞは十分にシティボーイだと思うのですが、彼はシティに疲弊しているんですね。なにがあったのかは知りませんが、最近はアカシックレコードと通信するための方法について真剣に考えたりしているんで、それはさすがにワケがわからんと私から声をかけて下町の銭湯へ連れ出したりして。

「おいヒロシよ。ボディソープもなけりゃ、シャンプーもねえな」

「えっ、番台で石けん買わなかったンすか兄ィ」

「なに?今日びアメニティもねえのか。じゃあ、おまえのよこせ」

「いや何いってんスか兄ィ。50円は大金っスよ。今から買ってくりゃあいいじゃないスか」

むッと押し黙って、背中まで届く濡れ髪をしぼってから兄ィはひたひたと浴場を出ていきました。まったく、兄ィとはいえサ。なんてことを思いながらその姿を目で追っていると、一糸まとわぬ姿で暖簾をくぐり、共用部の番台まで石けんを買いに行くという。

まあ、かわいいお話として一笑に付してくださいな。

私は私で自分のことを常識人と思っておりますが、定かではございません。兄ィだって同様に、自分のことを常識人だと思っているでしょう。とまれ世の中にはいろいろな方がございます。なまじ人には一緒くたには語れない色ってものがあるようです。

今後もまたパーパーパーパーお話を紹介させていただけますと幸いに存じます。

何卒、よろしくお願い申し上げます。


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