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16.日本のラグビーが最高にヒートアップした日
「幾星霜の人々と共に・白駒池居宅介護支援事業所物語」
第3話 「南極ゴジラを見た」
【今回の登場人物】
立山麻里 白駒池居宅の管理者
想井遣造 麻里の友人
甲斐修代 白駒池特養のケアマネジャー
滝谷七海 白駒地区地域包括支援センターの管理者
正木正雄 居酒屋とまりぎのオーナー
半年後に来る悪魔のことを夢にも思わない
夢のような喜びの時
16.日本のラグビーが最高にヒートアップした日
スポーツ居酒屋化した「とまりぎ」は、日本戦がない時もラグビーの中継を流したこともあって、様々な国のサポーターたちが押し寄せた。
アイルランドのサポーターたちは、自国を破った偉大な日本に敬意を表しながらも、試合開始前の国家斉唱では、北アイルランドも含めたアイルランドラグビーチームとしてのアンセム、「アイルランドコール」を、「とまりぎ」が壊れるかと思うくらいの大声で合唱した。
イングランドのサポーターは、彼らのラグビー愛唱歌となっている「スウィングロー」を何度も何度も繰り返し歌っていた。
イングランドとは縁もゆかりもない黒人霊歌だが、彼らはまるで自国の童謡のごとく「スウィングロー、スイートチャリオット」と歌いまくってはビールを飲んだ。
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南アフリカの黒人と白人のサポーターは、対戦するカナダとの試合を肩を組みあいながら見ていた。
試合は南アフリカの圧勝だったが、南アフリカとカナダのサポーターは楽しく語りあい、言葉のわからない日本人サポーターもその輪の中にいた。
テレビでも、南アフリカのキャプテンと、カナダのキャプテンが仲良く語り合う姿が映し出されていた。
そこに国境などという線、白人と黒人を区別する線や、言葉が通じない壁など、それら障壁となるものは何もなかった。
いつしか「とまりぎ」はボーダレスで結束していた。
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しかしそんな彼らの気持ちを不安にさせた超大型台風が日本を襲い、人々の生活を破壊し、楽しみをも奪った。
庶民はひたすら台風の恐怖におびえながら耐えるしかなかった。
その台風は、各地に被害を及ぼし、東京も少なからずともダメージはあったが、幸い白駒池界隈は何事もなく済んだ。
日本対スコットランド戦の実施も危ぶまれたが、多くの人々の努力により開催されることになった。
日本が勝てば、文句なくベスト8進出だ。
白駒池居宅支援事業所のメンバーは、横尾秀子が公休で、明神健太と徳沢明香も時間になると、すぐに退社していった。
二人がそれぞれにどこで誰と過ごすのかは立山麻里には計り知れないことだったが、麻里も先週同様「とまりぎ」でラグビーの応援をするため、戸締りをしてすぐに向かった。
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その「とまりぎ」は異様な雰囲気に包まれていた。
既にお客で一杯で満員締め切り状態だった。
料理もろくに出せず、立ち見客の多くは片手にビールスタイルだった。
想井遣造は相変わらず正木を手伝っていたが、今夜は石田信一も滝谷七海も甲斐修代もいる久しぶりのフルメンバーだった。
客の中には、想井が知りあった南アフリカの黒人と白人のサポーターもいたが、今晩に限ってはほとんどが日本人だった。さらにその半数がジャパンのレプリカジャージを着ていた。
麻里は、七海もジャパンのレプリカジャージを着ているのに驚いた。そして悔しがった。自分も着たかったがすでに品切れ状態だったのだ。
「あ~悔しい! 私もジャパンのジャージ着たかった!」
そして、麻里は甲斐修代を見てさらに驚いた。
彼女は南アフリカサポーターからもらったのだと、南アフリカのグリーンのジャージを着て、必勝と書かれた鉢巻をしていた。
そして正木までもが、ジャパンのセカンドジャージであるブルーのレプリカジャージを着ていた。
「なんでなんでみんなジャージ着ているの!」
と悔しがる麻里の前を、先ほどまでは普段着だった想井がジャパンのジャージを着て客にビールを渡していた。
「え? 想井さんまで、いつのまに! 私だけなんで… 」
その不満を戻ってきた想井にぶつけた。
「なんで私だけブラウス姿なんでしょうね!」
「あ、ほんとや。そのブラウスに赤ペンで横線引いたらジャパンのジャージになるやん。」
麻里は想井を睨んだ。
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そこへ甲斐修代が人をかき分けやってきた。
「はい、麻里ちゃんもこれして、応援!」
と、鉢巻を渡した。
その鉢巻きには「合格」と書かれていた。
「え? 意味が違うやん!」
「南アフリカの人は漢字やったら何でもいいと思って、一杯買ってきたみたいなの。だから南アフリカの人のお土産と思ってそれをして!」
修代に押されて、麻里は渋々「合格」鉢巻きを頭に巻いた。
そして、いよいよ試合が始まろうとしていた。
「とまりぎ」の雰囲気は異様な高揚感に包まれていた。
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