小説 空気 8 ブランコ
休み時間になった。
校舎から子どもが沢山飛び出して校庭に散って行った。
1年生の頃は、他のクラスメイトが教室で授業中でも、一人で校庭の遊具で遊ぶ事も平気だった。しかし、3年生になって、担任の先生が口うるさい人になってしまったため、そうもしにくくなっていた。
やはり休み時間は良い。他の子どもに紛れて、どの遊具でも遊べる。
私は、4個並んだブランコの右から二番目を漕ぎ始めた。
朝曇っていた空は完全に晴れ上がり、入道雲が立っていた。すぐに全てのブランコが埋まり、待ちの並びができた。一番左端のブランコでは、6年生の男の子と2年生の男の子が、どちらの方が先にブランコに乗るかで揉めていた。
それを横目に、あと何往復したら次の人に交代するかを考えていた。
程なく、急に悲鳴が聞こえた。
左の方を見ると、揉めていた2年生の頭から血が噴き出していた。
ブランコと衝突してしまったようだ。衝突したはずのブランコには誰もいなかった。乗っていたはずの6年生の姿は消えていた。
ブランコに乗り続けているのは、いつの間にか私だけになっていた。
校舎の方から、怪我をした2年生の担任の40代くらいの女の先生が慌てて走ってくるのが見えた。隣にはなぜか、私のクラスの前の席の女の子もいる。とても嫌な気がしてきた。
その女の先生は、2年生の男の子の怪我の状態を確認しながら、
「ちょっと、何をしたの?」
と私に叫んだ。
「私知りません。」
驚きながら答えると、
「佐々木さんがやったってブランコに乗ってた人から聞きました。」
と前の席の女の子が言った。
いつの間にか、私は2年生の男の子に大変な怪我をさせた悪い人という事になっているようだ。嘘みたいだ、この状況。
「私何もしていません。多分、当たってしまったのは、このブランコではないです。」
やっとの思いで勇気を出して行った言葉も虚しかった。なぜか私の弁解の余地は無さそうな、そんな空気だった。あっという間に人だかりができ、朝の比でない沢山の人から指を指された。
怪我をした男の子と保健室へ向かうその先生が言った。
「職員室に来て。」
私は本当に嫌になった。
でも、ここは絶対に逃げてはいけないところだとも思った。
私は仕方なく、方々からから沢山の人に陰口を言われ、指を指される中を、トボトボと職員室へ向かって歩き始めた。
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