「豪雨の予感」第5話(阪神淡路大震災でのみおの被災経験)
みおは阪神淡路大震災の被災者である。被災当時みおは神戸市須磨区で暮らす高校一年で、おばあちゃんと両親、弟と5人でおばあちゃんの実家で暮らしていた。須磨離宮公園から少し下ったところにあるおばあちゃんの家は木造二階建てで戦前から続く築80年以上になる家だった。2階からは須磨の海に伸びていく松並木と、その先には明石海峡をゆっくりと行き来する船をぼんやりと眺めるのが好きだった。時折汽笛が聞こえると「いつか船に乗って旅をしよう」と言ってくれていた優しいおじいちゃんを思いだすことも多かった。
午前5時46分震災が発生した、寝ていたはずにもかかわらず淡路島の方角からどどどと地鳴りのような音と揺れが近づいてきたのがわかった。始めはそれが何の音なのか何の振動なのかさえも分からなかった。その唸りと振動はみおに迫ってきた、スローモーションのように近づいてくる、ドスン。一瞬浮き上がった気がした、ベットに寝てるはずなのにまるでそのベッドが引き抜かれたような、だるま落としの上にいて、下の丸木をコンと叩き落とされたような感覚だった。そしてそれと同時に天井が上から迫ってきた、天井が地震の衝撃で崩れ落ちてきたのだ、天井とその上の瓦も全てみおの上に落ちてきた。みおは瞬間的に布団にくるまった。
1月だったので毛布と掛け布団をかけて寝ていた。天井が落ちてきた瞬間、その布団に反射的に潜り込んだ。なのに天井が落ちてきたのをリアルにスローモーションのように今でも思い出すことがある。本当に見たのはどこ瞬間までなのかわからないが、自分の上に埃をたてながら瓦が覆い被さってきたのを覚えている、不思議な体験だった。
「バリバリ、ドドドン」
布団を被った自分の身体の上に天井の木材と瓦が落ちていた、痛くて重くてそれに驚きもあって声が出なかった。その後しばらくは記憶がなく、鳴り響く消防車と救急車の音で意識が戻ってきた。ところがいつまでたってもその音は近づいてこない。しばらくするとサイレンが消え人の声が近づいてきた。
「大丈夫ですか!大丈夫ですか!声が聞こえたら返事してください!」
何度も同じことをきいている。
『ここにいます、大丈夫です、重くて痛いです、助けてください!』
声にしていたつもりだったが声になっていない
『声が、声がでない…』
第六話に続く
(このストーリーはフィクションです。一部実在する名称を使用しています)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?