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【注文住宅】「シンプルでいいね」と言ってしまう病。

こんにちは。
毎日推し建築家の設計した住まいを紹介している、一級建築士のこじこじです。

家づくりも終盤、私はお客さんと壁紙を選んでいる。

こんなにいっぱい種類があるんですね!悩むな~・・・。とお客さん。

そして散々悩んだ挙句の、しびれを切らした私の最後の決め台詞

「やっぱりこのあたりがシンプルでいいんじゃないですか?」

自分で言っておいていつも疑問に思う。シンプルのなにがいいのか。

飽きが来ないから?後から文句を言われることがまずないから?

間違ってはいないけど、なんとなく本質ではなさそう。

ついこの間、そんな私の疑問に答えてくれる本に出会いました。

原研哉さんの、「日本のデザインー美意識がつくる未来」という本です。

原研哉さんはデザインを志す人ならば知らない人はいないくらい有名な、日本のグラフィックデザイナー、アートディレクターさんです。無印良品のアートディレクションやヤマト運輸の新ロゴデザインなど、生活に溶け込むシンプルなデザインが特色です。

同書によると、世界で「シンプルは良いものだ」と認知されるようになったのは人間の長い歴史から見てもつい最近のことらしいのです。
それ以前は、シンプルと対極にあるもの、すなわち精緻で複雑なものが力の象徴として尊ばれてきた時代でした。例えばヴェルサイユ宮殿やタージマハル。どちらとも物凄い複雑な装飾や紋様で飾り付けられています。これはまさに力の象徴で、王様の権力を誇示するためのものなんですね。大陸国は常に侵略者と地続きの歴史を持っていますから、自分たちの国や文明や宗教を守るためにこういった力の誇示が必要だったのです。「こんな技術力を持った国にはとてもじゃないけど勝てっこない」と思わせるくらいの力の象徴として「複雑さ」が尊ばれていた。そのような時代下では「簡素さ」とは力の弱さでしかなかった。
時代は移り、産業革命による近代化に伴ってモノの複雑さで力を誇示する必要がなくなりました。武器を持っていればそんな見せかけの力は意味を成さないからです。だから逆に、反権力主義的な意味合いもあって「シンプルで簡素であること」が良いとされる時代が到来した。

と、世界の話はこんな感じなのですが、日本という島国の場合はまた事情が特殊で、慈照寺(いわゆる銀閣寺)を建立した足利義政の時代からシンプルさを尊ぶ文化が発展してきたようです。これは今から500年以上前なので、日本はシンプルの良さを世界に先駆けかなり早い段階から理解していた面白い国なんですね。それが今「ジャパニーズワビサビ」といって世界から再評価されているのもまた面白い。
我らがXのボス、イーロンさんもこのとおり。

日本の場合は大陸国と違って他の国からの侵略がほとんどなかった国なので、そういう意味でもシンプルが成立しやすかったのかも?と予想しています(とはいえ豪華絢爛な日光東照宮と数寄を極めた桂離宮を同時代に作ってしまうという変態っぷりや足並みの揃わなさを発揮するのが日本人でもあるのですが)。

まぁそんなことで、「シンプルでいいね」の言葉の裏には「慎ましやかでいいね」とか「威張ってなくていいね」という意味が隠れているように考えると、なんとなく腑に落ちた、という話でした。

今日はそんなシンプルさ、慎ましやかさがなんとも居心地良さそうだなぁと感じる推し建築家さんの作例を紹介したいと思います。

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