見出し画像

Keith Jarrett キース・ジャレット Jasmine


このキース、切なすぎます。

恥ずかしながら、少し感傷に浸りたいとき、泣きたいときに
思わず手に取ってしまうのが、このアルバム。

このヘイデンとの30年ぶりのデュオ作品を聴くと、
あまりに切なくて、泣いてしまうのです。

悲しい曲調とか、
大げさな嘆きとかいった感じでは、全くない。
むしろ、淡々とした、時にはからっとした明るささえ備えた、
二人のゆっくりした進行の中に、
深い悲しみのトーンが
通底していると言いましょうか、
沁み込んでしまっているといいましょうか。

キースの長いキャリアにおける悲喜こもごもの人生と、
それと比べて極めて凡庸な自分の人生とを
恐れ多くも重ね合わせたりして、
とにかく泣けてくるのです。

不器用にさえ聴こえる二人のやりとりは、
キース初心者には、お勧めできないかもしれませんが、
年を重ね、いろんな経験を積み、
時には病に倒れ、そして立ち直り、
ふと人生を振り返ったときに、
滲み出てくるようなダイアローグが、
とても、心に沁みてくるのです。

わざわざ、こういうたどたどしい様な
もどかしい様な、テイストを演出して、
創り込んでいたとしたら、
キース恐ろし! となりますが、
多分、このどこか、ためらいがちで、
一歩一歩噛みしめながら進む、語り口は、
キースの素直な内面の有り様が現れている思うのです。

とても不思議な感覚のする、
キースの他作品では見られない類の
音楽であると思います。

芥川賞作家の堀江敏幸も、
この作品に触れて、次のように語っています。
ジャスミン」には、「無意識の言い落とし」があると。
そして、
「なにかひとつだけ自由にならない音が、
使ってはならない音があるような気がしてくるのだ」と。

堀江氏の意味深な言葉にも戸惑いながら、
本当はキースとヘイデンしか分かり合えない境地の極意を、
ありがたく拝聴するしかないのである。

もう一枚「ラストダンス」というアルバムもありますが、
断然こちらの「ジャスミン」が素晴らしいので・・・
切ないキースをご所望の方にぜひ。

Charlie Haden   double bass
Keith Jarrett   piano

1."For All We Know" (J. Fred Coots, Sam M. Lewis)
2."Where Can I Go Without You" (Peggy Lee, Victor Young)
3."No Moon at All" (Redd Evans, David A. Mann)
4."One Day I'll Fly Away" (Will Jennings, Joe Sample)
5."Intro/I'm Gonna Laugh You Right Out of My Life"
  (Cy Coleman, Joseph McCarthy)
6."Body and Soul"
  (Frank Eyton, Johnny Green, Edward Heyman, Robert Sour)
7."Goodbye" (Gordon Jenkins)
8."Don't Ever Leave Me" (Oscar Hammerstein II, Jerome Kern)

released on 12 May 2010.

アルバムには無い曲ですが、「How Deep is the Ocean」


 


 

いいなと思ったら応援しよう!