ディストピア3-3
一日のすべての授業が終わった。やっと終わったという感じである。中学の授業は退屈である。大学のように自分で学びたいものを学ぶわけではない。文科省が指定した教科を粗雑に学ぶため、時として厳密性に欠くことがある。そのため、私にとっては中学のときの勉強が好きになれなかった。
同じクラスの嶋立や原島たちと自動販売機があるセントラルエリアに向かった。セントラルエリアにはもともと、学食があったのだが、現在は取り壊されており、コンビニの三分の一程度しかない購買と複数の自動販売機があるだけのただのだだっ広いスペースとなっている。そのため、放課後や昼休みに生徒が集って談笑するためのたまり場のようになっていた。私はセントラルエリアでジュースを買った。嶋立や原島も同じように紙パックのジュースを買っており、それを呆然と眺めていた。それと同時に私は一つのことを思い出した。
自動販売機にお金を入れたままにしたら、どうなるんだろう。もし、道端で飲み物を買おうと思って、自動販売機に手を伸ばしたとき、既にお金が入れられていたら人はどんな反応をするのだろう。
案ずるより産むがやすし。私は早速、財布から200円を取り出して自動販売機の中に突っ込んだ。隣にいた人から「また買うの?」と聞かれたが、私は自分の思惑を彼らに説明した。
「おもしろそう、ちょっと後ろで人が来るまで待っておこう」
我々はお金が入れられた自動販売機から離れ、人が来るのを静かに待った。セントラルエリアの中はしばしの静謐に包まれた。二階の音楽室からは吹奏楽部が練習しているトランペットや太鼓の音が漏れており、私はその微かに聴こえる音楽に耳を傾けていた。
「きたきたきた」
誰かの声で我に返った。自動販売機に目を向けてみると身長が150cmほどの一年生と思しき男の子たちがいた。彼らは何を買うのかというのを友人たちと談笑しながら考えていた。そんな中、一人の男の子が手を伸ばし飲料水の下にあるボタンを押した。
ピっ!という音と共にガタンという音を立て、紙パックのジュースが出てきた。
少年たちは何が起こったのか分からないといったような顔をしていた。私と嶋立たちは一斉に笑い、胸を張り、腕を大きく振りながら、まるで映画『アルマゲドン』のラストカットのようにして少年たちの許へと近づいていった。
「あ、今入っていた金、俺のやつだからそのジュース、もらっていい?」
「…」
ボタンを押した少年は口をぽかーんとあけたまま、我々の方を見ていた。それもそのはずである。喉の渇きを満たそうと思って、セントラルエリアに来ただけなのに、急に自分よりも大きな体をした男たちが現れて、わけのわからないことを言われたのだから。しかし、我々には他人がどう思うかというのは全く関係ない!ただ、おのれの好奇心を満たし、他人を壊らせることができればそれでいいのだ。私、いや迷治学園の人間に協調性や思いやりを求めようとしていること自体が端からの間違いなのだ!
そして、よく考えてほしい。彼らは自動販売機にお金が入っているという何気なく生きているとおおよそ、することがないであろう体験を私のおかげで体験することができたのである。本来ならば、困惑ではなく感謝をしてほしいところである。
私は自分がお金を入れていた理由を少年たちに説明したのだが、彼らは相変わらず困惑したままであった。
もう、これ以上説明しても仕方ない
そう思った私は、嶋立や原島たちと共に、胸を張って、大業をなしとげたかのように自慢げに帰っていった。
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