パチプロ肉山、ここに生誕【前編】
8/22 18時、蒸し暑い。財布には二万八千円が入っている、私はこの日パチンカスドリームをつかむために地元の商店街へと足を運んだ。歩いていくごとに心拍数が高まっていくのは走っているからだろうか、それともパチンコに行くからであろうかおそらくどっちもである。決して一人でパチンコを打つなんてことは考えていなかった。なぜなら、自分が万が一にも浪費しそうになったとき、自分を抑制してくれる人間がいると安心するからである。いうまでもなく私は無駄金を使うのが大の嫌いであるからパチンコなんぞに大金を使おうなど考えていなかった。
この時までは
商店街から最寄りの駅で待ち合わせをしていた友人が来た。友人がくると私はすかさず2chで得たパチンコの知識をあたかも経験者であるかのように友人に力説した。しかし、その友人は元来理解力が乏しい人間であったため、結局のところ2割ほどしか理解できていなかった。我々はすべての下準備が終わり、“戦い”へと出かけた。私自身はパチンコ店に足を進めるごとに負けたときのことを考えて怖くなってきた。自分が働いて稼いだ金がパチンコなんぞに吸われたらどうしよう、ほんとはパチンコに行きたくなくなったけど友人に力説した手前、後には引けないな。負の感情はここから加速度的に増し、私はこの感情をどのようにして合理化すべきかということを考え始めた。そして、とある悪魔が私の耳元でささやいた
パチンコに勝ちにいくんやない、負けに行くんや
まさにコペルニクス的転回である。最初から負ける体でいけば負けても不幸ではなくなるのである。そう、たとえ1万円近く負けたとしても。
パチンコ店に入った途端、ものすごい轟音が我々を歓迎した。これはパチンコ台の演出や球をはじく音が集積したものとなっていて友人はすこし驚いていた。だが、しかし私にはこの轟音が「いらっしゃいませ」にしか聞こえなかった。店に入ると我々はエヴァンゲリオンのパチンコ台を探した。それはすぐに見つけることができ、我々はついにパチンコ台と対面をした。私はその時とても緊張していた。そのときの心情はまるでサバンナで猛獣に出くわしたかのようなもので気を引き締めずにはいられなかった。「俺は何もわからないから、まずはお前からだ」と友人が言った。私は先輩として背中をみせなければいけないと思い千円を投入した。球が補給され私はハンドルを40度ほど左に傾けた。銀色の球が釘と釘の間を通り抜け、INと書かれた穴の中に球が入るのを私は目を凝らしてみていた。本日一回目の抽選、画面に映し出された六つの数字が回転を始めた。それと同時に私の心も動き出した。結果ははずれであった。たった一回だからそのはずだ。人生は甘くない、ほな次行きましょうか。どんどん、球を打っていくとわずか五分で千円が蒸発した。別に驚きはしなかった。心のどこかで絶望感がよぎったような気がしたが何とか押し殺し、もう千円投入した。負けた。もう千円投入した。負けた。結局三十分も経たぬうちに五千円が消え、私は半ば怒った状態でパチンコ店を出た。友人は私より早く店を後にしていたため、店の前で友人が私を温かく出迎えてくれた。「もう、パチンコはやめようか」二人でそう言って、パチンコを含めたギャンブルがいかに退廃的であるかを我々は話し合った。10mほど店から離れたところで、事件は起こった。そう、思い出したのである。「俺は負けにいったのだ」ということを。その瞬間、私は次のようなことを考え始めた「あの負け方は美しかったのか」。まさに地獄への片道切符である。結局のところ人は意地とかそういったもので人生を損していくのだと思う。例えば、対人関係のなかで生じるいざこざはどちらか一方、あるいは双方が意地を張るから時間が経ってもなかなか解決しないのである。閑話休題。悔しくなった。私は試合にも勝負にも負けたということではないか。
パチンコ店に戻った。先ほど私が売っていたパチンコは玉一個4円のものであったため、私は一円パチンコに移った。ちなみに台の名前は海物語である。まずは千円を投入し。40度ほど左にハンドルを傾ける。球が釘と釘の間と踊るようにしてすり抜けていく。何かがおかしい、さっきとは違う感情が私の中にあった。結局千円はあっという間に消えた。帰ろうと思った。しかし、どうせなら7000円すりたかったのでもう一度、惰性で千円分打ち始めた。数分が経ったとき、画面が急に光りだして音量も上がり「花火タイム」に突入した。
確変である
私は、興奮した。これならいける。いまならいけるこれまでの金をここで取り返せば笑顔で帰れる。もてる神経をすべてパチンコに集中した。一秒が三十秒に感じた。球があれよあれよという間になくなるが、それと同じようにINの中に入り抽選のチャンスが巡ってきた。私はここで引くとすべてが終わると思い千円追加した。確変がおこっている間は兎に角球を打ち、すこしでも無くした金を取り返そうとしていた。抽選がどんどん行われるが一向にあたる気配がない。しかし、この時の私には余裕があった。なぜなら、確変だからである。勝利はすぐそこまで来ており、敵を倒すまで残り一秒となったとき流れが変わった。確変が終了したのである。しかし、確変で抽選のチャンスが溜まっていたためあと20回は抽選することができ、私はその20回に一縷の望みを託した。