【ショートショート】家族サービス株式会社
この作品はフィクションです。
実際の団体や人物は関係ありません。
「先輩、SNSやばいですね」
後輩がスマホを見せてきた。
画面には、俺が投稿した家族写真が映っている。
子どもたちと笑い合うバーベキュー。
妻と肩を寄せて歩く夕日のビーチ。
クリスマスツリーの下での家族団らん。
「どの写真も素敵です。家族サービスの理想形ですよ」
後輩の言葉が、胸に少し重たく響いた。
俺は曖昧に笑った。
「まあ、ありがたいことだよ」
「家庭も仕事も完璧って、どうやったらそんな生活が送れるんですか?」
後輩が続けて質問してくる。
「段取りと計画だな。あと、少しの運も必要だ」
俺は適当に答えた。
実際のところ、この“幸せ”には秘密がある。
真実はこうだ。
写真の背景はすべて撮影スタジオのセット。
妻役も子ども役もプロの俳優たち。
完璧な笑顔すら、カメラマンの指示で作り出されたもの。
俺には家族なんていない。
これらの写真はすべて、「家族サービス株式会社」の提供品だった。
「本当に羨ましいです」
後輩がぽつりと言った。
「そうか?」
「はい。先輩みたいな家族を、僕もいつか持ちたいです」
その言葉に、俺は曖昧に頷くしかなかった。
内心では冷や汗がにじむ。
この嘘がバレれば、俺の“完璧な人生”のイメージは崩れる。
「でも……この写真、変じゃないですか?」
後輩がスマホをじっと見つめて言った。
「ん?」
「このバーベキューと、このビーチの写真……背景が同じですよね」
俺の心臓が一瞬止まる音がした。
確かに、どちらの写真にも同じ木、同じフェンス、同じ芝生が映っている。
いや、それどころか、妻の服装まで完全に一致している。
「これ……撮影スタジオですか?」
後輩の声が静かに響く。
その問いに、俺は観念した。
「ああ、そうだ」
俺はため息混じりに答えた。
「これ、全部“家族サービス株式会社”が作ったものだ」
「家族サービス株式会社?」
後輩が眉をひそめる。
「忙しい男のために、完璧な家族を提供するサービスさ」
後輩はスマホ画面を指でスワイプしながら、しばらく何も言わなかった。
「なるほど……」
その言葉の意味を読み取ろうとしたが、彼の表情は静かなままだった。
やがて彼が口を開く。
「それで、いくらなんですか?」
「30万円だ」
「……意外と安いですね」
後輩がそう言うと、微かに口元を緩めた。
俺もつられて笑い返した。
「そうだろう?でも、オプション料金が高いんだよ」
スマホをポケットにしまいながら、俺は次回の撮影予約のことを考えていた。
“次のセット、少しは背景を変えてもらうか……”
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