![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/152942282/rectangle_large_type_2_e4d153bb187a75527e873ca7fd212aab.png?width=1200)
【ショートショート】無効な選択
この作品はフィクションです。
実際の団体や人物は関係ありません。
選挙の日、彼は灰色の空を見上げ、胸の中で小さな不安が芽生えるのを感じた。
冷たい風が吹き付けるたびに、その不安は少しずつ膨らんでいく。
友人たちは「どうせ何も変わらない」と言い、彼を軽く見たが、彼は一人投票所へと歩みを進めた。
投票所で用紙を手にしたとき、紙の感触がいつもと違うことに気づいた。
少しざらついていて、そしてどこか湿り気を帯びているようだった。
ペンを走らせると、インクが紙にじわりと染み込んでいく。
箱に投じる瞬間、彼の胸に何か重たいものが落ちるような感覚が広がった。
「これで本当に何かが変わるのだろうか?」
帰り道、風がますます冷たくなり、彼の頬を刺すようだった。
政治家の演説が風に乗って耳に入るが、その声は遠く、彼の心に何も残さなかった。
彼は足を止め、冷たい風に吹かれながら、ただ無感動にその場に立ち尽くしていた。
その夜、彼は同じ道を何度も歩く夢を見た。
薄暗い道の先には投票所があり、彼は何度も投票用紙を投じた。
しかし、紙は決して箱に残らず、何度投じても手元に戻ってくる。
目が覚めたとき、彼はまだ紙を握りしめていた。
紙はしわくちゃで湿っていた。
彼はそれを見つめ、静かに破り捨てた。
裂ける音が部屋に響く。
その瞬間、彼の手に赤いインクがべったりとついていた。
「無効票」のスタンプの跡が、まるで彼の選択を嘲笑うかのように鮮やかに残っていた。
![](https://assets.st-note.com/img/1725294142-KzQhnHv3agJBjL5C7FymW1iM.png?width=1200)
最後まで読んで頂きありがとうございました。
いいなと思ったら応援しよう!
![佐藤直哉(Naoya sato-)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/129917974/profile_2305393574ba327baa6595f28f91528b.png?width=600&crop=1:1,smart)