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【ショートショート】休暇の代償

この作品はフィクションです。
実際の団体や人物は関係ありません。

「休暇ってさ、最高だと思わない?」
俺、カタオカは同僚たちに向かって胸を張った。

「いや、休暇取る前に無茶して働いてたら意味ないでしょ」

――ぐうの音も出ない正論だ。
でも、俺は肩をすくめて笑ってみせる。
「まあ、これも休暇の味付けみたいなもんさ。苦労がある分、休みが美味しく感じるってね!」

その場は静まり返った。
同僚たちは俺の顔をジッと見て、誰かがぽつりと言った。
「それ、休みの前に倒れるフラグじゃない?」


休暇前の俺の状態

  • 睡眠時間:3日で6時間

  • 主食:冷えたコンビニ弁当

  • 精神状態:「この案件が終わったら俺、南国に行くんだ」が口癖

そんな状態で、俺は自分に言い聞かせた。
「これが終われば楽園だ。頑張れ、俺!」


そして迎えた南国の楽園。
青い空、白い砂浜、冷えたカクテル――全てが完璧だった。

ビーチのハンモックに体を預け、波の音に耳を傾ける。
「ああ…これだ、これが俺のための休暇だ…」

まるで全ての苦労が報われた気分だった。
だが――。

ポケットでスマホが震えた。
画面を見ると上司からのメッセージが表示されている。

『戻ったら話がある』


その瞬間、俺の心に嵐が吹き荒れた。

「話があるって何の話だ?」
「俺、何かやらかしたのか?」
「まさかクビとか?」

ハンモックに横たわりながらも、頭の中は上司の言葉でいっぱいだ。
波の音すらも雑音に聞こえてきた。

俺はとうとうカクテルを飲むのもやめ、スマホを握りしめてこう呟いた。
「帰りの飛行機で全力でシミュレーションするしかないな…」


帰国後、オフィスに入ると上司の満面の笑みが待っていた。
「カタオカ君、休暇前に頑張ってくれたね! 素晴らしい!」

「ありがとうございます!」

「ただ…全部やり直しになったけど」

「…は?」

「それと、休暇中に溜まった仕事もあるから。残業、よろしくね!」


机に座り、カレンダーを見ると赤字で埋まった『残業』の文字が目に入る。
俺は深くため息をつき、つぶやいた。

「休暇って…仕事の前菜だったのか」

ビーチでの記憶は、ただの蜃気楼となり、ハンモックでの夢は、もう二度と戻ってこなかった。


最後まで読んで頂きありがとうございました。


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佐藤直哉(Naoya sato-)
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