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【ショートショート】破滅のススメ

この作品はフィクションです。
実際の団体や人物は関係ありません。

「人生、破滅から始まるんです」
壇上の男がそう語り始めたとき、会場は静まり返った。

男の横のスライドには、衝撃的な一文が映し出されている。

「借金1億円から年収1億円へ――ある男の物語」


「私は、かつて普通のサラリーマンでした。家族がいて、家も車も持っていた。でも…私は欲を出した」
男は自嘲気味に笑う。

「一攫千金を狙い、全財産を仮想通貨に投資したんです。その結果――全てを失いました」

会場にどよめきが走る。


「破滅は私にとって、最悪の出来事だった。でも、それが新しい人生の始まりでもあったんです」

男はスライドを次にめくる。
そこには、当時の彼の姿が映し出されていた。
ぼろぼろの服、疲れた顔――まさに『どん底』という言葉がふさわしい。

「この写真を見てください。この私が、なぜ成功できたのか知りたくありませんか?」


男は会場をゆっくりと見渡した後、口を開いた。
「私はまず、自分の失敗を文章にまとめました。それが『破滅の教科書』という本になり、ベストセラーとなったのです」

さらに彼は、オンライン講座のスライドを映し出す。

「月額3,000円。現在の登録者:3万人」

「私の失敗談を教訓に変え、それを売り物にしたんです。破滅した経験を語ること、それが成功の第一歩だった」


若い女性が質問する。
「つまり、破滅そのものが商売道具ってことですよね?」

男は微笑みながら答える。
「その通りです。破滅そのものが、最高の商品になるんです」

会場がざわつく中、彼は最後にこう付け加えた。

「ただし、この方法には一つだけ条件があります。それは――本当に破滅する覚悟があるかどうかです

彼は一瞬間を置き、満面の笑みで締めくくる。

「さあ、あなたも一緒に破滅を楽しみましょう」

最後まで読んで頂きありがとうございました。


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佐藤直哉(Naoya sato-)
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