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【ショートショート】速さの代償
この作品はフィクションです。
実際の団体や人物は関係ありません。
「履くだけで速く走れる!」という広告に、俺は心を奪われた。
これまで運動会ではいつもビリ。
街のジョギング大会でも、後ろから応援される始末だ。
だが、このスニーカーさえあれば――!
届いたスニーカーの箱には、『世界最新の加速素材使用』と大きく書かれていた。
履いた瞬間、足に吸い付くようなフィット感。
これが未来のテクノロジーか!
翌日、公園に飛び出し、全力疾走!……のつもりが、やたら息が切れる。
隣を散歩中の小学生がすれ違いざまに笑いかけてきた。
「おじさん、なんでそんなに頑張ってるの?」
焦りと怒りのまま店に向かった俺は、店員に訴えた。
「広告、詐欺じゃないですか!速くなるって書いてたのに!」
店員はにっこり微笑む。
「確かに『速く走れる』と書いていますが、それは『自分に打ち克つ速さ』という意味なんです」
さらに続ける。
「ちなみに靴の素材、重りを混ぜた特製です。重くすることで健康にも良く、持久力が鍛えられます!」
呆然とする俺に、店員はとどめの一言。
「商品を信じることが大切です。それが一番の速さを生むんですよ」
家に帰り、スニーカーをそっと下駄箱にしまった。
箱の端に書かれた注意書き――『効果には大きく個人差があります』
俺は苦笑しながらつぶやいた。
「信じすぎる速さだけは、もう鍛えたくないな…」
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最後まで読んで頂きありがとうございました。
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