【ショートショート】人脈術
この作品はフィクションです。
実際の団体や人物は関係ありません。
「すみません!どうやってそんなに人脈を広げたんですか?」
カフェの隅でラテを飲む彼に、僕は思い切って尋ねた。
彼は冷静な顔で、僕の質問を聞きながら微笑む。
その一言一言が、どこか謎めいた雰囲気を醸し出していた。
「人脈?ああ、それなら簡単さ」
彼はラテをひと口飲み、淡々とした口調で続けた。
「まず、SNSの投稿に即座にイイネを押すこと。そして、その投稿について簡単な感想をつけるんだ。"面白い視点ですね"とか"そのアイデア、考えさせられます"みたいにね。これで相手は、君がちゃんと読んでくれたって思うわけさ」
「なるほど…」
僕はすぐにメモを取った。
頭では「そんな簡単なことで?」という疑問が浮かんでいたけれど、彼の言葉は妙に説得力があった。
「そして、"あなたの成功を応援してます"ってコメントをつける。これで相手は君を好意的に見るだろう」
「すごい…!」
僕は感心してうなずいた。
さすがはトップネットワーカーだ。
しかし、彼はさらに続けた。
「でもね、一番大事なのは、全員を定期的にブロックすることさ」
「えっ、ブロックですか?」
思わず僕は聞き返した。
「そう。年に一回、全員をリセットするんだよ。これで新しい出会いができて、フレッシュな気持ちで人脈を築けるんだ。残るのは、本当に必要なつながりだけさ」
僕の頭の中は混乱した。
彼は冗談を言っているのか?
それとも本気でこんな手法が成功の秘訣だと考えているのか?
しかし、彼の顔は冷静そのものだった。
「でも、それって本当に効果が…?」
僕が疑念を口にしようとしたその瞬間、彼はスマホを取り出し、にっこり笑って言った。
「じゃあ、君もリセットしてあげようか」
次の瞬間、僕のスマホが震えた。
「彼があなたをブロックしました」の文字が画面に表示される。
「えっ…ちょっと待って!」
僕はスマホを見つめながら声を上げたが、彼は立ち上がり、カフェのドアに向かって歩き出した。
僕は一瞬、頭が真っ白になったが、次の瞬間、あることに気づいた。
「あれ…彼、僕のSNSアカウント知らないはずじゃ…?」
その瞬間、僕のスマホが再び震えた。
画面には「ネットワークのリセットが完了しました」と表示され、すべての連絡先が消えていた。
「えぇっ!?僕の人脈が…全部消えている!?」
僕は顔が真っ青になった。
スマホを持つ手が震える。
彼はドアを出る直前、振り返ってウインクし、軽く手を振った。
「また新しい人脈、頑張ってね」
最後まで読んで頂きありがとうございました。