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余命いくばくかの保冷剤

 大分涼しくというか、かなり寒くなってきた。
 私は職場に、作ったお弁当を持って行くようにしているのだが、ついこの間まで大きなブロックみたいな保冷剤をお弁当袋に入れて持って行っていた。
それがつい先日、「涼しくなったから、もうこんなに大きいものはいらないだろう」とケーキ屋で入れてもらえるような手のひらサイズの保冷剤を1つ、ポンと入れて行った。
 昼休み、カバンからお弁当袋を取り出した時、あれっと思った。軽い。ものすごく軽い。一瞬、私は今日お弁当を忘れてきてしまったのかと思うくらいに。
当然お弁当も入っていたし、お箸もあったが、悲しくなるほど軽いお弁当だった。
 今年の酷暑を乗り越え、私を食中毒から守ってくれたあの大きな保冷剤がなければ、手間暇かけて作っている私のお弁当はこんなにも軽くて惨めになってしまうのだ、と悲しくなった。それと同時に、あの大きな保冷剤の重量感が頼もしく、温もりある存在だったのだと(文字通り温もりがあるとお弁当は死んでしまうが)思い知らされた。
今日はあの大きな保冷剤を入れた。
小さくて軽いお弁当がまた少し重たくなって嬉しかったが、今年はいつまでこの保冷剤と共にお昼の時間を過ごせるだろう、と、迫るタイムリミットになんだか胸が切なくなった。

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