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昏き闇斬り裂く眩き光~異・ウルトラマンA~

空想(こういうヤツが見たかった)特撮シリーズ

第0回プレヒストリア

<MAT再建せよ>
 20XX年春に起きたバット星人事変により、MAT-J(“J”は日本をを意味する符牒。劇中で使用された)本部は壊滅状態に陥った。さらに郷秀樹という、実働部隊としては初の戦死者をも出した。
 銀色の巨人ウルトラマンとの連携で、バット星人と宇宙恐竜ゼットンの撃破には成功したものの、それは郷隊員の犠牲と引き換えの勝利だったのだ。
 バット星人事変以後、原因は不明だが異星人による侵略事件は激減した。しかし怪獣が出現しなくなったわけではなかった。
 自然災害、天変地異としての怪獣は以前として出現しつづけたのである。だが対応すべきMATはバット星人の本部侵入を許してしまったため、動力源と隔壁を破壊され海水が大量に浸水。結果、海底基地の機能がほぼ失われてしまい、対怪獣兵器を伴っての出撃が不可能な状態にあった。
 加えてこれまで度々日本を救ってきたウルトラマンもゼットンを倒して以降、姿を見せなくなっていた。
 つまり怪獣を退治するには、そのノウハウを唯一持つMATの再建が必要不可欠であり、喫緊の課題だったのだ。

 当初政府には、怪獣退治は自衛隊に任せれば良い、という意見が強かった。震源地はむろんのこと、防衛庁と与党の国防族議員である。
 がしかし、その声はすぐに小さくなった。
 自衛隊の保有する兵器・火器では、文字通り怪獣に歯が立たなかったのだ。
 怪獣とは自然災害の一形態とされながら、その多くの生体は非合理的、つまり超自然的な存在である。その様な存在に人間同士の戦闘のために開発された兵器が効果を発することは稀だった。
 故に過去には国際機関であり特殊な機材を装備する科学特別捜査隊、略して科特隊がその対処に当った(科特隊の詳細については別稿で語る)のだが、当時かの組織は<警察では対処出来ない怪事件の捜査・解決>という本来業務に立ち戻っており、対怪獣機材は備えていなかった。
 以上は日本に限っての話だが、他国もまた似たような物であり、怪獣の駆除に四苦八苦していた。

 国防を担う組織でありながら、怪獣案件に関してはMATの指揮下に置かれてきた自衛隊としては、その実力を見せつける好機だったはずが、逆にMATの必要性を世間に知らしめるハメに陥ってしまった。

 やはり怪獣退治は怪獣退治の専門家に任せるのがいちばんだったのだ。
 結果、日本国政府とMATの上位機関である地球防衛庁(Global Defense Agency/GDA)は、カウンターパートナーである地球防衛機構(Wold Organization/WDO)の全面的協力のもと、速やかにMATの再建に務めることを決した。

 大損害を受けた本部は幾度かの検討の末に放棄されることとなり、新本部は富士山の裾野周辺一帯の地下に建造されることに決定した。
 その規模は、老朽化を理由に一部を除き閉鎖状態にある、旧地球防衛軍(TDF)極東方面軍基地を上回っていた。
 それまでなら野党どころか与党ですら認めなかったと思われる予算規模を伴うこの新基地、否、要塞建造計画は予想とは異なり、すんなりと国会の予算審議委員会を通過した。

 WDOも予算を負担することになっていたとはいえ、これは日本がバット星人事変に、現代の我々が想像する以上に大きな衝撃を受けたことが大きな理由なのは、研究者たちの一致するところである。


<科特隊の誕生~星間紛争時代>

 時代は大きく遡る。
 バット星人事変から遡ること数十年前、日本を中心に世界各地で超自然現象が多発、やがて怪獣が出現するようになった。
 さらに警視庁や海上保安庁の史料によれば、有名なガラダマ事件以外にも異星人が関わった事件があったらしい。当時は先に挙げた組織が対処に当たったが、彼らは治安維持を目的とした組織であり重火器の類いは保有していなかった。
 ならば自衛隊が・・・と言いたいところだが、適当な出動名目がない上に政府与党がそれを嫌った。その頃は第二次世界大戦からまだ20年ほどしか経っておらず、日米安保条約を巡り反対派による武力闘争が頻発していた。
 ゆえに例え相手が怪獣や異星人でも、軍人が政治に容喙して国政を牛耳った結果、亡国に導いた記憶が鮮明だった。ゆえに新国軍と呼ばれた自衛隊を出動させることに政府与党ですら躊躇ったのである(他国では国軍が対処していた)。 
 とまれ、こうした通常の警察力では対処出来ない、超常現象的事件を専門に扱う組織を求める声が、先進国各国の中からもあがった。
 彼らは彼らで、世界各地の紛争に戦力を割いていたため、兵力に余裕がなかった。さらに西側陣営の盟主たるアメリカ合衆国では反戦活動が活発化しており、時には州軍がデモ鎮圧に出動するほどに先鋭化していた、という事情があった。つまり誰も彼もが何らかの事情を抱えていたのである。
 そこで西側主要国は怪獣や異星人が関わっていると思われる事件を専門に扱う組織、国際科学警察機構(International Organization of Scientific Police:IOSP)を特殊警察条約の名のもとに立ち上げた。
 条約加盟国には支部が設置され、日本支部では実働部隊として科学特別捜査隊(Science Special Search Party:SSSP)、通称科特隊が編成された。 

当時の科特隊本部。改組に伴い規模が縮小された現在は、施設の一部は記念館とされ、一般に公開されている。ちなみにビートル発着用パッドは撤去されているなど、往時とは様々な点で異なる。

 彼らには軍事転用を禁じられた、威力の強い対怪獣用兵器の開発・保有が認められており、IOSPの厳しい監査を受けながら活動を行った。
 特に怪獣の出現率が高かった日本支部の活躍は著しく、その活動に注目した各国支部は日本に倣い独自の科特隊を編成していった。

 そして科特隊誕生からおよそ20年を経た頃、日本は幾度か異星人の襲来を受けた。バルタン星人、ザラブ星人、メフィラス星人、ダダ、ゼットン星人である。
 この中でも科特隊関係者にショックを与えたのは、ゼットン星人だった。当初は友好を装ったザラブ星人の本部侵入という前例があったものの、ゼットン星人は地球人に偽装、本部に侵入し破壊活動を行った。
 地球人に偽装できる異星人がいる。この事実はIOSPのみならず、各国政府を驚かせた。
 科特隊結成以前にも異星人の襲来あるいは来訪はあったとされるが、公式な記録では地球人に偽装した異星人はいなかったからである(これについて異論を述べる研究者がいる)。

 その後コード名“ゼミ”なる友好的な異星人からの情報で、天の川銀河では領域拡張戦争が繰り広げられていることが知れた。
 さらにそれまで辺境に過ぎなかった地球太陽系だが、日本科特隊がウルトラマンと名付けた異星人が出現したことで、他の恒星系群から大きな注目を浴びるようになったのだという。
 当時の科特隊は知る由もなかったが、ウルトラマンは他の島宇宙からの来訪者であり、メフィラス星を始めとした天の川銀河の恒星間文明圏は、彼を侵略の尖兵ではないかと疑ったのだ。
 以後、地球太陽系を他の島宇宙の、天の川銀河への橋頭堡にされないため、友好的非友好的を問わず、次々と異星人が地球にやってくるようになった。
 どうやら先進文明圏からすれば当時の地球は野生動物にも等しい存在に過ぎず、他の島宇宙に対する防波堤の任を頼むには足りなかったらしい。さらに地球の資源に目を付け、それを略奪しようと目論む先進文明圏勢力も出現した。
 さすがの科特隊といえども所詮は警察機構、本格的な軍事組織の必要性が論じられるようになった。

 事態の深刻さに国連安保理は超国家的防衛組織の結成を決議。軍政部門としてWDOを、実働戦力として地球防衛軍(TDF)を結成した。

 ちなみに地球防衛軍は国際法的には国連軍であり、ゆえにそれまで朝鮮戦争時に一度だけ設置された国連軍事参謀委員会(Military Staff Committee/MSC)に最高司令部の役割を与え、これを軍令部門とした。 こうして史上初の超国家組織が誕生したわけだが、それも長くは続かなかった。 TDF結成から十数年後に起きた、ゴース星人事変である。極東方面軍の管轄域地下に要塞を建造した彼らは、二子山要塞基地を猛攻撃することで極東方面軍の動きを封じ込め、地底核ミサイルで世界に対し隷属せよとの勧告を発した。 勧告を跳ね除けたTDFに対しゴース星人は攻撃を開始。ニューヨーク、ワシントン、ロンドン、パリ、モスクワ、北京等々、TDFの中核戦力を有する国々の首都圏および基地を地底核ミサイルで吹き飛ばした。 残るは東京および二子山の極東方面軍基地。もはや降伏も止む無しと思われたが、超爆薬スパイナーを積み込んだマグマライザーによる攻撃でゴース星人の地下基地を破壊することに成功、辛くも勝利を掴むことに成功した。
 しかしその結果、ウルトラ警備隊のエースとして世間に知られていたモロボシ・ダン隊員を失った。彼はゴース星人との戦闘で重傷を負い待機を命じられていたが、マグマライザー作戦を成功させるためにあえて命令違反を犯し、遠隔操作予定だったマグマライザーに乗り込み敵の地下基地に特攻、これを爆破せしめたのである(以上は旧防衛軍公刊戦史よりの引用※01)。

 この後、極東方面軍以外はゴース星人の地底からの核ミサイル攻撃で壊滅したTDFは、そのあまりの被害の大きさに組織の解消を余儀なくされた。
 なにしろ日本を除く米英仏露中、つまりTDFの中核を担ってきた国々の首都とその戦力は、あらかた吹き飛んでしまっていたからだ。これでは再編もへったくれもあったものではない。

 さらには米ニューヨークの国連本部内に設置されていた、TDFの統帥機関たるMSCもまた、当然のことながら蒸発していた。
 結果、生存した各防衛軍基地司令部は、以後の命令を、唯一残っていた上位機構だった極東方面軍司令部に求めざるを得なかった(北米方面軍司令部のあるワシントンは、ニューヨークと同時攻撃を受けていた)。軍としては極めて正しい行動だったと言えるだろう。
 だが詳細は今を以ても不明だが、当時の極東司令部もまた、混乱の極みにあった(翌年に惹起するウルトラ警備隊叛乱事件との関係性を指摘する研究者も少なくない)。
 結局TDFは様々な事情から、国連の再建に伴い解体となり、WDOもまた再編されることとなった。
 すると一体何の冗談なのか、世界で多発する異常気象や天変地異に呼応するかのように、前述した様に、世界各国で怪獣の出現が頻発化した。

※01:マグマライザー特攻作戦前後でのモロボシ隊員の記録や報告書が、ひどく曖昧模糊なのは研究者の間ではよく知られた話である。
 実際、マグマライザーは当初の計画通り、遠隔操作で敵基地に特攻したと証言する旧TDF関係者がいる。さらには、理由は不明だが彼は無許可離隊していたとする証言もある。
 これについては奇妙な異説もある。ゴース星人事変をテーマにした本の執筆取材中のジャーナリストが出会った青年が、少年時代にモロボシ隊員と僅かな時間さけれど一緒にいたと証言している。

(つづく)


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