未来に飛んだ夢
オヤジブログ怪気炎 vol.245
タケさん童話8
ボクは今年の春大学に入った一年生。親は家計が苦しそうで地元の国立大学に入ったことを喜んでいた。年間36000円は確かに安いが、実は二期校のここしか受からなかったのだ。本当にこの大学でボクが学びたかったことが見つかるのか、まだよくわからない。講義は概して退屈だが稀に面白い授業もある。大学の先生は皆その分野では有名な学者らしいが、研究職だから教える技術に長けていなくても構わないことがよくわかる。サークルはグリークラブという男声合唱団に饗応を受けて引き摺り込まれてしまった。夏の関西への演奏旅行は楽しかったが、先輩たちの荷物を持たされたのは閉口した。自分が上級生になったらこの慣習はやめようと思った。
そんなある日、通学途中の電車でうとうとしていると、夢の中で50年後に飛んでいた。夢なのですべてあやふやなのだけど、なぜか50年後とわかっているのだ。
50年後の湘南電車はずいぶん揺れが改善されて、つかまらなくても平気だ。そこに白髪混じりの自分を見つけた。
「みんな、四角い手帳みたいなものを覗き込んでいるけれど、コレは何?」
「これはスマホって言うんだ。」
「?」
「重いパソコンを持ち歩かなくても、できる仕事があるし、アプリを開けば映画も音楽も鑑賞できるんだよ。」
「パソコン? アプリ?」
聞いたことがない言葉だった。パソコンのコンはコンピュータのことらしいが、大学の情報教育センターに巨大なコンピュータが入るらしいという噂を聞いていた。
周りを見てみれば、どの乗客もスマホなる機械を覗き込んでいる。目に悪いだろうに。
「乾電池はどこに入るの。」
「小さくて薄いバッテリーが入っているんだよ。みんな自宅で毎晩充電しているのさ。」
「持っていないと困るものなの?」
「元々スマホは、携帯型の電話が発達したもので、メールやLINEも含めて、人との通信はスマホがないと不便なんだよ。」
携帯型の電話とは、トランシーバーのような無線機だろうか? メール? LINE? 郵便や電報はどうなったのだろう。
駅に着いた。改札口に駅員さんがいない。どうすれば駅から出られるのかと思っていたら、スマホを細長い機械の上にかざしている、ピッという音がして金額が表示された。どうやらこれでいいらしい。
未来の自分にくっついて、駅を降りてみるとたしかに電話ボックスがない。どうやら通信手段がものすごい勢いで変化したみたいだ。
未来のボクはお腹が空いたのだろう。ラーメン屋に入っていった。家系ラーメン? なんだそりゃ、聞いたことがない。でもスープの味にご満悦の様子だ。
続いてコンビニに入った。これは知っていた。最近できたばかりの深夜も朝も開いていて何でも売っているよろずやのことだ。飲み物を買ってレジに進むと「PayPayで」とか言っている。この呪文のような言葉は何だろう。魔法の合言葉か?
「バーコード決裁のボタンを押してください。」と言われて、駅の改札口のように、またまたピッ。機械が「PayPay」と喋って、買い物が済んだらしい。
目が覚めた。訳の分からない夢だったが、そんな未来もあるのかもしれない。この先どうなるのかわからないから未来なのだ。
スマホとやらが無ければ、生活が立ち行かなくなるような未来は、機械任せで何だか危なっかしい気がした。
手のひらにはしっかり切符が握られていた。