エッセイ#43『ほんとにあった夢十夜④』
広い荒野の真ん中に、私は独りぽつんと立っていた。
まるで『北斗の拳』の世界を再現したかのような土地に、訳もわからず立ち尽くしていると、突如として大量の昆虫が現れた。ムシは苦手だ。特に、芋虫や毛虫、ムカデやヤスデなんかは、その文字を見ただけで虫唾が走る。
しかしその昆虫の大群は次の瞬間、またしても突如としてやって来た屈強な男達によって捕獲されてしまった。私は思わず「助かった……。」と安堵の声を漏らしたが、これで終わりではなかった。なんと男達は、彼らの手に握られた昆虫を舌で舐め始めたのだ。とても直視できたものではない。しかし私の意思とは関係なく、その様子はしっかりと目に写ってしまった。
そして急に世界が劇画タッチになったかと思えば、その空間はテレビCMへと変わった。そう、男達が昆虫を舐め回していたのはCM上の演出だったのだ。
「『昆虫ぺろぺろ』発売中!!」
どこからともなく、そんな声が聞こえた。
気が付くと、バイト先の古本屋にいた。勤務開始前の朝礼である。普段は絶対に夜からの出勤だったが、今日に限っては早朝からシフトを入れていたようだ。店長が「2階の方でCMを撮っているので、気を付けてください。」と言うと、他の従業員達が一斉に「はーい。」と返事をした。どうやら知らなかったのは私だけのようだ。
私の持ち場があるのは、CM撮影が行われている2階である。1段1段、ゆっくり階段を昇りながら上階の様子を伺い、ここぞというタイミングでダッシュで2階を目指した。しかしそれでも撮影の合間を狙うことはできず、2階に到着したタイミングでCMが始まってしまった。
「『昆虫ぺろぺろ』発売中!!『BIG昆虫ぺろぺろ』も!!」
なるほど、大きくなって新発売というわけか。この商品の用途はわからないが、通常サイズでは足りない人用の「BIG」が作られたのだろう。荒野を走る屈強な男達が採用された理由にも、これで納得がいく。
見た日:2021年某月某日