エッセイ#32『20円のボールペン』

 だいたい1ヶ月くらい前に、アルバイト用に20円のボールペンを購入した。よく百均に売っている5本で110円のボールペンのような、キャップが付いているタイプのものではなく、歴としたノック式のボールペンである。私は目を疑ったが、書ければ何でも良かったので、試しに買ってみることにした。
 書き心地は、決して良いと言えるものではなかったが、全く書けないということはない。アルバイト先の点検表にサインをしたり、メモを取ったりする程度には充分役に立つ。凄い。凄いが、怖さの方が若干勝っている。このクオリティのボールペンが20円で売っているということは、原価はもっと低いということだ。あんな凝った作りの道具が、積み木よりも安いだなんて。積み木を作れ、と言われればきっとそこそこの完成度のものが出来るに違いないが、ボールペンを作れ、と言われたら、どれだけ積まれても断る自信がある。

 こう改めて考えてみると、ボールペンは仕組みの複雑さと値段が釣り合ってなさすぎる。ドラマ『JIN-仁-』でも佐分利先生がボールペンに驚いていた記憶もある。我々はボールペンに慣れすぎて、ボールペンの有難さや素晴らしさを見失っているのだ。さあ、今こそボールペンを崇める時だ!


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