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無駄だ。私はもうすでに死んでいる。

『葉隠』
佐賀県固有の武士道です。
私は無宗教ですが、強いて言わないといけないならば、「葉隠」と答えるでしょう。

「武士道とは死ぬこととみつけたり」
という言葉は聞いたことがあると思います。
これは、
「死を覚悟して生きよ」
ではありません。
父に教えてもらったことがあります。

25歳ころから真剣に本を読み始めました。
それまでは漫画でない本なんて、ほとんど読みませんでした。
読解力が低い私の中学校のテストは、5教科合計400点を毎回超えてましたが、内訳は、
「数学90、英語90、社会90、理科90、国語40」
というおかしなものでした。

そんな私が、なにを思ったのか本を面白いと思って父と話していた時、父のお気に入りの本を紹介されました。それが、今でも座右の書のひとつの、
隆慶一郎『死ぬこととみつけたり』
です。隆慶一郎は、たしか還暦を越えてから執筆活動が始まり、わずか5年で急逝しております。
そのため、未完の作品があります。これもそのうちの一つ。

隆慶一郎先生の作品は、実は、漫画で見たことがある人は結構いるはずです。『花の慶次』の原作者です。
私は、原作小説にまさる映画やアニメはそうそうないと思っていますが、この作品は、漫画の方が面白く、かっこいいです。

閑話休題。
父に『死ぬこととみつけたり』を紹介してもらったときに、冒頭の言葉の真の意味を教えてもらい、それが気に入って読み始めました。

毎朝、起きて目を開ける前に、頭の中でより濃く死んでおく。仕合で槍に打ちぬかれ、刀で真っ二つにされ、銃で頭をいぬかれる。または、獣に喰い殺され、落雷によって絶命。水死、滑落、等々、あらゆる死に方で、頭の中で死んでおく。
そして、死人として目を覚ます。
死人として生きているのであれば、何がきてもおそろしいものはない。すでに死んでいるのだから。

という意味です。
この作者は、痛快な文章を書く技術がとてつもなく高く、面白く、快活に読めます。

これを初めて読んだときは、日本一の体育会系公務員に就職する状況でした。
入る前は本当に不安でいっぱいでした。ただ、この本を読んでから、これを実践して生きていこうと決め、少しずつ不安は消えていきました。
そして、辞めるまでの1年間、ずっと葉隠を実践していました。

それはもう、すごい効果です。
こわいものはほとんどなくなり、何が起こっても平常心。突然雨が降り出そうが、叱声をいただこうが、無心に近い。
ただ、良いことばかりではありません。目つきも尋常でなくなり、ひょうきんな性格は全くなくなり、笑わなくなり、感情もなくなり、果ては性欲まで霧散しました。
意識的に殺気を放てるようにもなりました。

正直、人ではなかったと思います。感情も消え、笑いも無くなる。
結局、毎日のトレーニングで走りすぎか、ストレスか、両方かわかりませんが、極度の貧血で倒れたので、辞めました。

こう書くととても危ないものですが、ちゃんと、良いとこだけを抜き出して使えば、すごく有用です。
私は、人間関係で困ったときや、緊張するときは、寸前でもこれを行い、対処しています。死ぬときのイメージは、とにかく濃く。私は顔がゆがむほど、痛みが感じられるよう、鮮明にイメージします。

ですが、葉隠には、このような危険な内容ばかりではありません。
優しく、強く、凛とした人間に近づけるような内容のことを書いてますので、今でも通用します。
酒の飲み方や、恋愛について、などもあります。

私が葉隠を読む前から気を付けていて、この葉隠にもある、気に入ってる一文があります。
「二つ二つの場にて、早く死ぬかたに片付くばかりなり。別に仔細無し。胸すわって進むなり。」
という一文です。
選択は、より死に近い方を選ぶだけ、ということです。
危なくない言い方をすれば、難しい方を選択せよ、ということですね。

当たりではないかもしれませんが、ハズレではありません。
その通りに選択した、その結果の今現在、幸せには程遠いですが、間違っていたとは微塵も思っていません。

ウソです。ウジウジ後悔してるときあります(笑)
選択の場で、怠惰な私は激しく懊悩し、心で泣きながら、
「じゃ、じゃあこっちを選びます。ヒグッ」
となってます。
私の欲しい幸せと、目指すカッコいい人間像は対立するようなので、仕方ありません。
死人だったときは、悩みもせずに即断でしたね。時に上司から強制的に休まされました(笑)
上司先輩への返答は、「はい」か「YES」しか許されないので仕方ない。

私的な幸福を選びたいけど、今読んでいる、宮城谷昌光『管仲』の文を心に、またぶれずにやっていこうと思います。いつか、理想と幸福が合致すれば最高なんですが。

「不誠実や無理解に直面しても、悪性を放たず、黙って立ち去るのが君子というものだ。胸がやけただれるほどくやしいが、耐えることは人を大きくし、やがてそのくやしさが人を飛躍させる。そうなるまで待っている女性がかならずいる。管仲はそう信じた。」

追伸

ちなみに、つい先日また選択の場ができて苦悩してます。ただし、今回はできる限り引き伸ばします。
宮城谷昌光先生の本から得た、大好きな言葉があります。

「四路五道。戦の進退には、前後左右の四つの道があるが、動かないのも進退の一つである。」

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