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『少年と犬』
この本は、読書会の課題図書なので読みま始めた。
私の好きな本は、己の怠惰を気づかせてくれたり、這いつくばってでも生きていこうと思えたり、業や闇の深い、けれども人間くさい人間が必至で生きていこうとしている本。
しかし、あまりそんな本は見つからないので、大体は好きな作家さんの本をループ。そのループの合間に、気になった本を読んでいるだけ。
賞を取った本は基本読まない。何冊か偶然読んだことはあった。好きな作家のそんな本を読んだこともある。面白くなかった。浅田次郎さんの本は、賞を取ってない本の方が数倍面白かった。座右の書にもなった。
すべてがそうではないけれど、確率は高かったので、避けている。
この本も結構な人気作のようで、来年映画公開予定らしい。
この作家さんは初めて。
感想文て、ネタバレしても良いのかな?
極力抽象的に書きます。
期待せずに読み始めたが、冒頭数ページ読んだだけで、肌に合うかもしれないと思った。
一匹の犬「多聞」が、色んな人間と関わり、目的地へ向かっていく話。その個人個人との関係を書いていった、連作短編という手法の小説。
話が進むにつれて目的地が近づいてきます。
動物が主役となる小説は、西村寿行さんの本を何冊か読んだことがある。
この人の本に出てくる人間は、闇の深い人間ではなく、魅力を感じない怠惰な人間が多いので、好きではない。ただ、動物の描写がとても素晴らしい。
『生』への欲望を具現化している言っても良いくらいの躍動感と思考。
ワイルドすぎる(笑)
そんなワイルドな犬ではありません。たぶん、己一匹で狩りはできず、人間に関わらないと死んでしまう普通の犬。ただ、目的地だけはどれだけ遠くにいても、なぜかわかる。
であるので、次の短編に入ると飢餓で痩せている。
私がこの本で好きなのは、人。
闇の深い人間ばかり。ただ、全員に共通しているのは、多聞に出会うその時に、切羽詰まった苦悩の状況に陥っている人間。
そこで多聞に出会い、心が満たされ、余裕が少しでき、最後の力を振り絞っていく。
そう、振り絞って、「逝く」んです。
残酷に、その章の主人公があっさりと死ぬ。
主人公でなくても、目的のためにあっさりと殺される。
リアルすぎる。
こういう切り捨てる感覚というのは、どういう感情なのだろう。
その時になれば、わかる感情かもしれないけれど、その時が来ること自体がもう。。。
この犬は死神かな、と思いました。
いや、孤独な人間を看取りに来ている、とも言える。
各短編の終わりは、救われない。
多聞はどこにいても目的地の方角を向いていて、そのことにその時関わっている人は気づき、多聞の力になろうとします。
結果的に命を懸けて、文字通り「命のバトン」を渡していきます。
これは、この本の主役が犬だっただけで、「バトン」ということだけを見れば、私たちの全員がそうだ、と思った。
色々な人間を渡り歩き、人の取捨選択をし、または取捨選択をされ、今現在、大事な人間に囲まれている。
そう思えば、余計に大切にしたいと思った。
今回学んだことがある。
生きていれば、激情にかられそうなことは幾度となくある。ただ、ほとんどの人は歯を喰いしばって耐える。しかし、その激情に駆られて、例えば相手を殴れば、例えば相手を殺せば、という想像をしたときは快感に支配される。少し落ち着けば、「しなくてよかった」と思うが、火中のその時は非常に難しい。
仮に第三者視点で激情にまかせた人間を見たとき、どこをどう見ても、自ら地獄に転がり込んでいっているようにしか見えない。なぜなら、第三者から見れば、激情にまかせた時点で、どうあがこうが、どう反省しようが、行きつく先は一つしか見えないから。
この感覚を忘れずに、精進していこうと思った。
とても面白かった。
この本は、本当の孤独を経験したことがある人には刺さる本だと思う。
ただ、これが欲しかったというのがある。
それは、多聞視点の章。
これがあれば完璧だった。