医学部に次ぐ最強ルート（慶応内部からの弁護士・会計士）について
筆者は学歴キャリア論において基本的に医学部医学科への進学がベストだと説いてきた。東大の難易度は医学部を大きく上回るが、意外にキャリアという観点では難しい面がある。医学部の場合はきちんと勉強すれば生涯に渡って使える手に職が身につくのに対し、東大の場合は優秀層を除けば早慶旧帝とそう変わらないところに就職するし、レールを外れたら優位性は消えてしまう。医学部がストックビジネスなのに対し、東大はフロービジネスに近く、東大生は学生時代が人生の最大瞬間風速になりがちである。こうした事情が「東大までの人」を量産する背景になっているのだ。
ところで、医学部に次ぐ（場合によっては上回る）最強の学歴＝キャリアは何か。本当なら東大理学部からの研究者とか、東大法学部からの官僚と答えたいところが、違う。筆者が準最強だと考えているのは「慶応内部からの弁護士・会計士」である。今回はこの点について見ていこうと思う。
弁護士・会計士の有利さ
「東大より医学部」論の背景に、東大を出てもその優位性は新卒就職の一回きりで終わってしまうことがあった。東大卒は「1回券」なのである。医師免許は、何度でも使えるし、犯罪しない限り剥奪されることはない。こうした強みは三大国家資格である弁護士・会計士においても同様である。社会に出れば誰しも感じるものであるが、やはり「学歴より資格」なのだ。
東大を出ていれば確かに就活では明確に有利である。ただし、東大を出ていた場合でも、その切符が使えるのはせいぜい新卒か第二新卒までだろう。それ以降は他の大学の出身者と似たような進路となる。別に東大を出ているからといって社内での優位性はないし、転職市場での価値はキャリア次第となる。更にいうと新卒就活においても東大卒は思いの外、有利ではない。筆者の周囲で希望の進路がかなっている人間は半分程度である。官僚の面接に落ちてメガバンクで働いているとか、総合商社に落ちてメーカーで働いているとか、就活に全滅して塾講師になっているというケースは結構多いと思う。更にいうと官僚になったとしても数年以内にドロップアウトしてしまえば同じである。
この点、弁護士・会計士であれば就活リスクは低いし、ある程度保障された世界で行きていく事ができる。この優位は年々大きくなっていくはずだ。会計士であればそれほど給与水準を落とさずに地方でも働くことができるが、サラリーマンには不可能な芸当だ。弁護士の場合はなんとも言えない。地方での新規開業は地元の動向によっては難しいようだ。
また、トップランクになれば弁護士は桁違いの額を稼ぐことができる。年収3000万とか4000万まで行くケースもザラだ。四大弁護士事務所では初任給1000万でいきなり秘書が付くという話は有名である。ただし、注意が必要なのはこの手の事務所は外銀並みに働かされるということである。数年でドロップアウトしてインハウスに転向する人間はかなり多いようだ。
会計士の場合はより外銀等のビジネスマンに近いかもしれない。ただ、それでも一般のサラリーマンよりは稼ぐことができるだろう。一般のサラリーマンよりも転職が容易であるため、無理して会社にしがみつく必要性は乏しい。これは業務の独立性が高い資格業の強みである。
弁護士の場合は営業力が問われ、公認会計士の場合は監査法人等で激しい競争環境に置かれるため、医学部ほどの強みはないかもしれない。それでも転職のしやすさや勤務地の観点から一般のサラリーマンよりは強みがあると思う。
慶応内部生の先取り学習
この点において強みを持っているのが慶応の内部生である。エリートの登竜門である司法試験の予備試験の合格者を見てもらえば分かるのだが、合格者は東大の次に多いのは慶応だ。事実上、東大と慶応の二強時代を考えて良い。昔は早稲田と中央が強かったのだが、この二校はやや凋落している。これは司法試験が昔のような泥臭いものでは無くなったのも影響しているのだろう。一橋は少数精鋭で、決して東大と慶応に引けを取らないが、かなり地味である。京大は学者や裁判官においては東大並みに強いのだが、最近の拝金主義的なトレンドにはあまりついていけていない。
この慶応の強みを支えているのが内部生である。慶応法学部の司法試験合格者を見てもらえば分かるのだが、多くは内部生だ。というのも、内部生は高校時代から先取りして司法試験の勉強しているため、予備試験において圧倒的に有利なのだ。中高一貫校の前倒し教育と似たような現象が司法試験にも発生している。東大生が大学受験の勉強で消耗している間、慶応はその労力を全部司法試験につぎ込むことができるのである。また、この現象は公認会計士についても同様と考えたほうが良い。
この前倒し勉強は単に司法試験に有利というだけではない。万が一司法試験に落ち続けた場合でも、時間的な余裕があるため、民間就職に切り替えることが容易である。この点で東大生の場合は年齢的な理由で引き返せなくなることが多く、慶応内部生には劣後する。新卒カードを失っていない場合であっても、民間就職のための準備をする時期を全て司法試験の勉強で潰してしまっているため、情報収集などの点で不利であり、弁護士・会計士に挑戦することは相応のリスクが伴うのだ。
私大の法学部はどちらかというと経済学部や国立理系に劣後することが多いため、慶応法学部と東大法学部にはかなり大きな学力差があると思う。それでも慶応法学部がこれほどの強みを見せているのは先取り学習が非常に有利だからだ。同様の条件は早稲田にも当てはまるはずなのだが、なぜかあまり聞かない。ちょっと不思議である。
慶応内部生最強論
筆者の以前の記事でも書いたかもしれないが、慶応内部生というのはかなりコスパの良い学歴である。昔は内部生だとバカと言われたときもあるのだが、最近は逆転傾向にある。というか、基本的に良いところに就職するのは内部生ばかりである。人間のコミュニティにおいて基本的に最初からいる人間が有利なので、内部生は学内で優位に立つことができるし、人脈などにも繋がりやすい。学費はかかるかもしれないが、大学受験に関わる塾代がかからず、浪人リスクもないと考えると、むしろ安上がりかもしれない。
更にいうと、たぶん地頭という観点では慶応は内部生の方が上である。慶応の進学者の高校を見てみると、慶応高校よりも偏差値の高い高校はほとんど見られない。地方から優秀な学生が入ってくると考える人もいるかも知れないが、慶応の入学者の7割以上は首都圏である。また、これは文系学部の性質にも関わっている。理系学部であれば高校までの勉強の延長線上にあるため、東大をはじめとした国立大学が有利である。一方、文系学部は高校までの勉強と大学以降に求められる能力が断絶しているため、大学受験のための勉強は手段でしかない。となると、内部生の「大学受験の勉強を回避できる」という性質はかなりのアドバンテージとなる。
慶応にとって目の上のたんこぶとなる大学は東大と一橋だ。ただし、内部生は慶応の中でも相対的に上位にいるため、そこまで大きな差はないだろう。東大生は進振りなどで忙しく、就活に対してもそこまで真剣ではないため、慶応内部生はその気になれば簡単に逆転することができるだろう。また、弁護士・会計士の場合は高校までの学びとは別の分野であるため、東大生に追いつくのもそこまで難しくないだろう。
中高一貫校との比較
この慶応内部生の優位は東大受験における中高一貫校の優位と似た側面がある。中高一貫校は高校受験の負担が存在しないため、大学受験のための先取り学習に当てることができ、有利と言われてきた。
全く同じ構図が慶応内部生にも言えるのではないかと思われる。慶応は「高大一貫校」なのかもしれない。大学受験の負担がない分、慶応内部生は大学以降に役立つものにエネルギーを割くことができる。理系の場合は内部生は不利かもしれないが、文系の場合は大学以降に求められる内容が断絶しているため、相対的に有利な傾向がある。ここは弁護士・会計士の勉強で大いに威力を発揮すると思う。
こう考えると、実は日本で大学受験が盛んな理由は国立大学の優位が続いているからなのかもしれない。公立高校が強かった時代は東京でも高校受験がメインだったが、日比谷の没落とともに中高一貫校が席巻してしまった。ところが大学の場合は国立大学に内部進学制度が創られる可能性はないため、やはり大学受験で勝負するのが王道となる。基本的に学校のQOLは内部生がいないに越したことはないので、国立大学はいいところだと思う。
令和の最強学歴論
このように整理すると、一番利得の多い学歴が浮かび上がってくる。ものすごく勉強ができる生徒であれば中高一貫校から医学部医学科に進学すれば良い。ここは早慶旧帝の手が届かない雲の上の世界だ。
そこまでの学力がない場合は早慶付属に進学して弁護士・会計士を狙うと良いだろう。大学受験のためのエネルギーを資格試験に当てればかなりの優位性が期待できる。挫折したら民間企業に就職すれば良い話だ。
ただし、理系に行きたい場合は話が違ってくる。医学部医学科に待遇面が劣るとは言われるが、やはり優秀な生徒は理系に興味を持つものである。この場合は旧帝大への進学は重要になってくるだろう。
更にいうと早慶に手が届かない学力層の場合はなるべく理系に進学したほうが有利だ。大学院で逆転が可能だし、大手企業に入るもの容易だからだ。文系の場合は体育会系や留学のような強みがない限り、キャリア的には厳しくなってしまう面がある。理系に進むメリットは大学の偏差値が低いほど大きいのではないかと思う。
ここで宙に浮いてしまうのは東大文系だ。民間企業に就職したり弁護士・会計士を狙う場合、東大文系や一橋に受かるためのハードな受験勉強をする必要はなく、早慶内部で十分である。東大文系に余裕で受かってしまう生徒の場合は国立医学部を狙ったほうが人生は安泰だろう。「やりたいこと」があるという場合は多くは理系に行ってしまう。
令和のキャリア論の特徴はジョブ型への移行が進みつつあることだ。東大文系は以前は官僚を筆頭としたメンバーシップ型の社会で強みを発揮していたのだが、令和になるともはや優位性を失いつつあるのかもしれない。純粋に学力を活かすのなら医学部医学科に行くべきだし、文系就活するなら早慶内部生で十分だ。コンサルやエンジニアといったジョブ型で生きるにしてもこの場合は理系の方が優位にある。現代日本において、東大文系は以前持っていた輝きを失っているのかもしれない。
まとめ
いつものような冗長な記事になってしまったが、筆者の主張は普段と変わらない。学歴が生きるのは新卒就活の時だけであり、その後のキャリアと言う観点では資格の方がメリットが大きい。弁護士や会計士を狙う上で大学受験の勉強は全く役に立たないので、大学受験のエネルギーをそのまま資格試験に向けられる慶応内部生は圧倒的な優位にある。民間就活においてもそこまで東大や一橋には劣後しないだろう。東大に入れるくらい勉強ができるのなら、医学部に行ったほうが得策である。
慶応の付属に行った筆者の知人は司法試験に合格して渉外弁護士になっている。学力的には筆者の方が圧倒的に上だったはずなのだが、蓋を開けてみると収入や社会的威厳で大きな差がついた形だ。他の知人も軒並み大手企業に就職し、恵まれた立場にある。筆者のような低空飛行の東大卒は容易に逆転されてしまうのである。
令和日本において無理して東大に進学するメリットは少ない。ハードな大学入試をクリアしても医学部のような見返りがあるわけではなく、早慶付属をはじめとしたライバルと更に戦わなければならない。社会に出れば東大卒の得意とする頭の良さは生きず、コミュ力やビジネスセンスの方が重要だ。医学部に行きたいか、よほど理系でやりたいことがない限り、基本的に早慶付属校を目指すのが首都圏の賢い生き方だろう。