文系学問への関心を活かせる仕事はあるのだろうか

 難関大文系の出身者の中には一定数、文系学問への興味が強く、進学を希望した人間がいる。高校生の段階ではまだ将来の進路はイメージしにくいだろうから、なんとなくの関心で学部を選ぶ人は多いだろう。問題はその先である。文系学問はしばしば「役に立たない」と言われる時があり、実際に文系学問の興味がきっかけで進学したタイプは就職やその先の人生で葛藤を抱える時がある。理系に進学したタイプにはあまり見かけないので、ここの文理格差は結構大きいと思う。理系は院卒が評価されるのに、文系は学卒が評価されるのは両者の違いが現れているだろう。

 文系人材の葛藤の原因はなにか。一言でいうと、文系学問への興味と文系職種に求められる気質があまりにも乖離していることにある。筆者の周囲を見ても、文系学問への興味関心から楽しみながら学力を伸ばしたタイプは、その後の人生に物足りなさを感じているケースが多かった。ここでいう文系学問に興味を持つタイプというのは、アカデミックなガチ勢に限らず、政治経済の話に詳しかったり、地理オタクだったり、という程度でも含まれる。逆に会計学のような分野は含まない。

 文系人間の就く職種は大まかに文系専門職と文系総合職に分けられる。前者の典型例は弁護士・会計士・税理士・行政書士・宅建士といったものだ。後者はいわゆるサラリーマンである。文系総合職のやることを一言で言うのは難しいが、管理職・営業職・事務職などと表現されることが多い。正直なところ、こうした仕事に文系学問への情熱が生きることは少なく、体育会系の方が重宝されることが多い。前者の文系専門職に関しても、法学や会計学といった実学分野は高校までの勉強とは毛色が異なっており、関連性はあまりなさそうだった。筆者の周りを見ても、文系学問が好きなタイプで弁護士や会計士になった人物はあまり多くない。

 筆者の周囲を見ると、文系学問が好きなタイプは民間企業の就職に苦戦している人間が多かった。総合職であっても文系職種の仕事は経理・総務・法務といったブルシット専門職の系統か、営業・接客といった現場系か、管理職かである。大組織の上級管理職になるレベルであれば別かもしれないが、不動産の営業や区役所の事務仕事に文系学問への興味を応用できる気はしないし、そういう人は見ない。一般的な文系職種は文系学問とは求められる能力は別だし、下手すると反対かもしれない。

 今回は文系学問への興味が生きるキャリアは存在しないのか考えてみたいと思う。

学者

 これが最も理想的な仕事だろう。しかし、タダでさえ「役に立たない」とみなされがちな文系学問で学者になることは容易なことではない。大変なリスクと学費を背負って低年収の非常勤講師になる人が多く、文系大学院卒の悲惨な末路はよく知られるようになった。実際、文系博士課程で就職の道を選ぶと、他の同級生に比べて悪い就職先で、しかも興味関心が生きないケースがほとんどだ。

作家・芸術家など

 学者と並んで理想の職業だろう。ただ、学者と比べても生計を立てるのが非常に難しい職種でもある。専業で食っていけるのは一握りで、後は赤貧の暮らしをするか、業界を去ることも多い。少なくとも、子供に勧められる仕事ではないだろう。

学芸員など

 学者になるのが難しいが、興味を活かしたいという人が、しばしば目指す職業である。デメリットを挙げるとすれば、収入がかなり低いということだ。やはり文系学問は根本的に経済的生産性に繋がらないので、「食えない」ということなのかもしれない。実社会でバリバリ働きたい男性にとって、学芸員になることは相応の妥協が必要である。

教師・塾講師など教育系

 実のところ、これが一番手っ取り早く、安全だと思う。文系学問に興味を持つ人は大体が学校の勉強が好きだった人だから、教育系の職業に就くというのは悪い選択肢ではないだろう。教育は一般に社会的に「無いと困る」業界とされているため、相応の収入と安定が保証されているし、一定の社会的地位もある。

 文系の高学歴難民は基本は教育系に就くのがベターだと思う。無理してブラック企業で働くよりも、よっぽど幸福度は高そうだ。大人の世界での評価が高いかは分からないが、少なくとも教育者は子供や保護者にとっては尊敬すべき存在だし、感謝される機会も多いと思うからだ。

マスコミ・出版などメディア系

 これまた教育関係と並ぶ就職先だろう。教育系と比べるとイケイケな人が多い印象だ。ただし、業界の風土が文系学問とどの程度合うかは微妙である。メディアはクリエイティビティという点では相性は良いのだが、やっぱり対象が一般層であるため、文系学問への興味は教育ほど被らない。

 また、メディア系の問題として、それ自体はあまり生産的ではないという事情もある。教育と比べると「無いと困る」業界ではないため、収益を挙げるのは大変だ。従ってメディア系の会社にはしばしばブラックなところが多い。それなりの待遇を得られる大手企業は狭き門である。

国家公務員

 官僚というと出世モンスターのように描かれがちだが、実際は文系学問に興味を持つタイプも多い。社会科が好きな人間が社会科に出てくるような事柄を扱う仕事に就きたがるのは自然なことだと思う。

 ただ、国家公務員はお役所仕事の文系総合職であるため、文系学問への興味がダイレクトに生きるわけではない。それにブラック極まりなく、離職率はかなりのものだ。それでも生き残っている人も大勢おり、本当に優秀だと思う。

 ちょっと不思議なのだが、国家公務員になりたがるタイプと地方公務員になりたがるタイプにはかなりの乖離がある気がする。後者は社会貢献やホワイトさを念頭に置いている者が多く、文系学問への興味とは正反対だった。

シンクタンクなど

 シンクタンク系は民間企業の中では比較的文系学問への興味が生きやすい業界と思われる。ただし、シンクタンクはゴリゴリの民間企業で、扱う案件はビジネス色が強いため、文学部系の興味の人は満たせないだろう。

とにかくホワイトな仕事 

 文系学問への興味の生かし方とは多少ズレてしまうのだが、とにかくホワイトな仕事に就くという手段もある。仕事は生計の手段として割り切り、趣味に人生の意味を求めていくのだ。この方針で生きている人は結構多い。

 ただ、こうした生き方もラクとは限らない。ワークライフバランスが整った就職先といっても、片手間でできるほど仕事は簡単ではないし、相応の消耗をすることが多いだろう。自分の興味関心が社会で活かせず、趣味の世界にこもって自己満足に浸るしか無いという虚しさを感じるケースもある。実社会の名誉を重んじるタイプにとっては結構辛いと思う。

まとめ

 筆者の周囲を見渡した限りでも、文系学問への興味は実社会には生きにくいことがほとんどだった。理系の場合はエンジニアやプログラマーといった職種があるし、企業の中で研究職に就くという道もあるのだが、文系の場合は産業界で評価されるタイプの仕事がとにかく少ない。文系人間の花形とされる金融・コンサル・商社といった業界やメーカー・インフラの文系総合職は、こうした人種との相性がすこぶる悪い。理系であってもこうした業界に進んだタイプは似たような閉塞感を感じているようだ。公務員系も微妙である。文系も理系もどっちも好きという人間はなるべく理系に進むべきだし、文系に進みたいのであれば、教職を常に念頭に置くのが良いと思う。

いいなと思ったら応援しよう!