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進撃の巨人=パレスチナ・ガザ地区という説について検証する

 10月7日のハマスによるイスラエルへの攻撃は多くの死者を出した。この事件を受けてネット上でしばしば言及されたことがある。ガザ地区の様子が進撃の巨人の壁内世界に似てないか?というものだ。今回は進撃の巨人とパレスチナ問題の類似性について検証したいと思う。

壁内世界はガザっぽい?

 進撃の巨人の世界は三重の壁に囲まれており、主人公エレンは常にそこ彼でで自由になりたいと願っていた。壁内世界は巨人から常に脅かされており、ライラーたちマーレ勢力の攻撃によって大きな被害を受けた。実際は壁の外は敵だらけであり、エレンは壁外のマーレを吸収するなど、旺盛な戦闘意欲を見せている。

 この構図は現在のガザ地区と重ね合わせになる。ガザは20年近くイスラエルによって封鎖されており、周囲を完全に分離壁で囲われている。ガザ地区は「天井のない監獄」とも呼ばれており、内部では常に不満が渦巻いている。エレンと同様に家族をイスラエルの攻撃で奪われ、壁の外へ復讐したいと願うものは大勢いる。その中の一部はハマスに参加し、調査兵団のようにイスラエルに攻撃を仕掛けている。

 また、マーレ大陸もイスラエルに似ているところがある。マーレ側にもエルディア人は居住しているが、狭いゲットーに押し込められ、自由を著しく制限されている。彼らはイジメに等しい行為を受けながらもマーレには勝てないと悟っており、従属させられている。この状態は現在の西岸地区とかぶるものがある。西岸地区は和平路線の自治政府によって支配されているが、国土は無数に分断され、事実上のゲットーと化している。許可証がなければ同じパレスチナの他の地区に行くことすらできない。

 マーレによるエルディアの迫害は現在に始まったわけではない。110年前の戦争の結果、エルディア人は壁内とマーレのゲットーに押し込められた。それまではマーレは常にやられる側だった。やられる側の民族がいつの間にか迫害する側になるというのもイスラエルによく似ている。マーレは常に自分を被害者だと思っており、エルディア人への同情論は生まれそうにない。

 西岸とガザの関係は複雑であり、ハマスとファタハの派閥対立が問題を悪化させている。両者はいつ戦闘を行ってもおかしくない。これもエルディア復権派・マーレ協力者・壁内世界の激しい分裂を思い起こさせる。壁の王が敵視していたのはマーレというよりも同じエルディアの敵対勢力だった。

 10月7日の攻撃は前例のないものであり、イスラエルに大きな衝撃を与えた。これはレベリオ襲撃作戦を彷彿とさせる。マーレ側はこの攻撃を全く予測できず、大きな被害を出した。戦槌の巨人も奪われている。マーレは激怒し、すぐさま報復攻撃を準備し始めた。世界連合軍がマーレに終結し、パラディ島を抹殺するための軍事作戦を行おうとしていた。これも現在のイスラエルの軍事行動と類似している。

 内部での政策論争の結果、パラディ島ではジェノサイドを肯定するイェーガー派が政権を獲得した。これもイスラエルとの和平を拒否するハマスがクーデターで政権を奪取した過去を彷彿とさせる。

進撃の巨人とガザが似ていない点

 進撃の巨人とガザの共通点は大体こんなところだ。他の項目では大きく条件は異なる。ガザの住民はエルディア人と違って、全世界に敵視されているわけではない。イスラエルは狭小な国であり、人口はごく僅かだ。周囲を取り囲むイスラム世界の方が圧倒的に大きい。彼らは軒並みパレスチナに同情的であり、熱心に支援を繰り広げている。ヒイズル国を除いてこれといった同盟国が存在しないパラディ島とは大違いである。

 進撃の巨人で作られた壁はエルディア人によって作られたものだ。壁は自由を奪われる象徴ではあるが、それでも壁内世界を巨人から守っている。一方でガザの分離壁は一方的にイスラエルによって作られたもので、ガザ住民を閉じ込めるためのものだ。こちらの壁は壁の外の住民を守るために築かれた。

 最後にガザはイスラエルにゲリラ攻撃を仕掛けることができるが、ガザができることはそれだけだ。ガザは「地ならし」に相当する必殺技を持っていない。ガザは圧倒的な軍事力にやられるだけだ。 

進撃の巨人はむしろイスラエル側に似ているかもしれない

 少し意外かも知れないが、進撃の巨人はイスラエル側の方が共通点が多いかも知れない。

 イスラエル国家はイスラムの海に浮かぶユダヤの孤島だ。人口数百万のイスラエルに対して20億のイスラム教徒は激しい憎悪を見せており、ユダヤ人は迫害の対象となってもおかしくない。イスラエルは完全に敵に囲まれており、絶望的な地政学的立場にいる。イスラエルの近隣はもちろん、離れた国であってもイスラム教徒はイスラエルを敵視している。ユダヤ人はヨーロッパでも2000年に渡って迫害を受けており、もはや世界に真の居場所と呼べる存在はイスラエルだけだ。この孤立した状況は壁内のエルディア人と重ね合わせる事ができる。イスラム諸国は国内問題への不満をイスラエルへの憎悪にすり替える傾向があり、マーレや他の諸国においても似た現象は見られる。

 進撃の巨人の世界は男女皆兵だが、これまたイスラエルの現状と被る。イスラエルは人口が少なく、女性を徴兵しなければ十分に国を守れない。世界で男女皆兵の国と言えば他に北朝鮮やエリトリア程度だ。

 イスラエルは中東唯一の核保有国であり、いざとなった際には切り札になる。これは地ならしに相当するだろう。イスラエルは仮に全世界を敵に回してでも生き残るのが国是であり、核兵器の使用を躊躇する国ではない。

 イスラエルが壁内世界に相当するとなれば、パレスチナ人に相当するのは無垢の巨人だ。彼らは悪意ある加害者ではないのだが、壁内世界に深刻な脅威をもたらしており、軍の目的は彼らを討伐することだ。イスラエルでも同じ現象が起きている。

イスラエルがそぐわない点

 とはいえ、イスラエルが壁内世界と異なる点もある。壁内世界は外の世界に比べて圧倒的に文明が遅れているが、イスラエルは中東唯一の先進国だ。独裁体制の続く壁内と違い、イスラエルは民主主義と自由の砦であり、言論の自由が広範に保証されている。

 壁内世界は不戦の契りによって縛られていたが、現実にイスラエルを束縛するものは何もない。せいぜい国際社会の圧力程度だ。オスロ合意は守られていないし、NPTにすら加盟していない。

壁内世界の構図は複数の要素のミックス

 壁内世界は様々な要素が混ぜ合わされて構想されている。

 壁内世界はドイツ風の名前が多く、おそらくゲルマン系部族のようなルーツを持つようだ。世界では重大な歴史責任を負っていると認識されているが、これもホロコーストを背負うドイツを彷彿とさせる。

 パラディ島の立ち位置は台湾に似ている。大陸に根拠地を置く大国が離れ小島に遷都するという構図がソックリだ。実際のパラディ島はマダガスカルに形状が酷似してるのだが、シチュエーションとしては台湾である。

 意外だが、パラディ島は北朝鮮との類似点もある。北朝鮮は「楽園」とされているが、外部世界に比べて極端に経済が遅れている。厳しい鎖国体制により、国民は外界の情報に接することができない。北朝鮮を支配するのはレイス家と同じく独裁的な王朝であり、破綻した国家を生き延びさせるために大量破壊兵器による瀬戸際外交が唯一の活路となっている。ライナーは壁内に侵入した時に、アルミンは壁外に侵入した時に、それぞれ経済格差の大きさにびっくりしたはずだ。

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