NF型の感性で陰謀論を読み解いてみる
最近、陰謀論やフェイクニュースの弊害が叫ばれるようになっている。ネット上を中心に既存の科学的事実や一般的な報道を否定し、非科学的な真実があたかも本当かのように語られていることがあるらしい。反ワクなんかは良い例である。
以前の記事でも書いたのだが、陰謀論の厄介なところは反証が不可能であることだ。
数学や自然科学なら頭の良い人たちが議論して客観的真実なるものが明らかになるが、現実の社会はもっと複雑で込み入っている。陰謀論者は知識と推論を総動員して自分の意見を裏付けるようなロジックを組み立てていくだろう。陰謀論者は情弱ところか、驚くほど博識である。ただ、その知識は全て自身の主張を補強していく方向にしか使われない。
今回は人間観察という観点から、陰謀論に関する考え方を書いてみたい。
NT型の弱み
こういう時、NT型の論理や議論を重んじるやり方は役に立たない。むしろ逆効果だ。陰謀論は言ってしまえばNT型の良くないところが現れたものとも言えるかもしれない(NT型が陰謀論にハマりやすいということではない)
しかし、物事をNF型の観点で見つめてみると、実は全く違った風景が見えてくる。まるで赤外線で人体を見ているような感覚である。NF型の観点とは、要するに他者理解に務めるということだ。相手の論理が「正しいか否か」ではなく、「なぜ相手がそう考えるに至ったのか」を推し量るということである。真実など存在せず、全ては気持ちの問題ということである。
もちろんそうやって出た所感が「正しい」と言うつもりはない。というか、NF型は4タイプで最も客観的真実に興味がないと思う。NF型が重んじるのは他者理解と共感、それに理想だ。だから、良くも悪くも自分の中で納得できたかが重要になるだろう。
陰謀論にありがちなタイプ
先述の通り、陰謀論者の主張に反論することは不可能であるため、彼らの主張内容を聞いたとしても意味は殆どない。また、現在の社会で何が正しいかを見抜くのは非常に大変だ。政府やメディアが間違ったことを言っているケースだってある。こういう時、有害な陰謀論者を見分ける手がかりはどこにあるのだろうか。
もちろん、ここで有用なのはNF型の感性である。当事者の具体的な主張ではなく、そう考えるのに至った背景や心理を読み解いていけば、陰謀論者を把握することができるだろう。
陰謀論者にありがちなタイプの一つは愉快犯系である。特定の政治主張を繰り返して相手を攻撃するのは、ぶっちゃけていえば楽しい。攻撃的な単語を使えば自分が強くなったように感じるし、安全なところから相手を困らせるような快感もある。うちに秘めたヒーロー願望もある。ネット炎上や芸能人への誹謗中傷に近い心理的背景である。愉快犯といえば言葉が強いが、ネット弁慶と言ったほうが実態に近いのかもしれない。以前のネトウヨもこうした背景があったのではないかと思う。
しかし、最近の陰謀論で目立つのは、もっと別の一群である。陰謀論の中で最も蔓延している形態は、ネガティブな感情に支配されているタイプだ。具体的に言えば言説の中に常に怒りや不安がにじみ出ている人間である。相手の主張に強い怒りが込められている場合は、議論はまず成立しないと考えて良い。ありがちな言説は「〇〇は信用できない」とか「〇〇は悪意を持っている」という内容である。
愉快犯系の場合はアドレナリンというのか、ポジティブな感情が背景にあるので、刑事罰がちらついたり、周囲の人に否定された場合は大人しくなることがある。このタイプは褒めたほうが増長するので、インフルエンサー寄りかもしれない。一方、ネガティブな感情から来ているタイプは反論や説得をするとむしろ怒りや不安が増大して、ますますのめり込む傾向がある。フォロワーはこっちである。
3つ目のタイプとして統合失調症系がある。これに関しては医療的ケアの問題なので、専門家に任せれば良い話である。主張内容も常軌を逸していることが多く、他人が彼らの主張に影響されるとは思えない。むしろ統合失調症系が示すのは、人間の想像力が暴走するとネガティブな方向に行きがちだという点である。彼らの主張する、誰かに監視されているとか、CIAのスパイが浸透しているという話は、陰謀論の心理的背景に共通するものがあるのではないか。
陰謀論者のうち、若年層は前者が多く、中高年層になると後者が増えてくるようだ。若年層の陰謀論者はまだマシだ。10代であればまだ成長途上で、新しいことを学んで考え方が変わることが多いだろう。ライフステージが激しく移り変わることも重要だ。筆者は一時期アンチフェミ的な思想を考えていたことがあるのだが、彼女ができたらどうでも良くなってしまった。進学や就職、交友関係の広がりによって考え方が修正される機会が多いのだ。
一方、中高年層の場合は改善の手段が乏しい。中高年は友人付き合いが乏しく、固定化されており、新しい考え方に接する機会が遥かに少ない。コロナ禍でその傾向は更に悪化した。また、人生経験があるがゆえに悪い意味で自信を持ってしまっている。更に厄介なのが中高年の幸福度は若年層に比べて低く、現状への不満を改善する手段がほとんどないということだ。若年層と違ってライフステージの変化も悪い方向であることが基本であり、その恐怖がますます感情を悪化させる。閉塞感や絶望感といったどす黒い感情が陰謀論やその先の正義中毒などに人を向かわせるのである。前頭葉の老化やネットリテラシーの低さよりもこちらのほうが原因ではないかと思っている。
このように書くと人生がうまく行かない中高年が陰謀論者のようになっているが、実際は裁量権の多い立場に立っている中高年も陰謀論にハマりやすいのではないかと思う。自分の考え方に自信があり、周囲から修正される機会が少ないからだ。自営業とか専業主婦とか結構見かける気がする。家庭生活が円満な人間も多いだろう。人生がうまくいくことと、ネガティブな感情を抱いていることは両立しうる。むしろ「将来が不安」という理由で堅実に働いたり貯金をしていることが多いのではないかと思う。
長くなってしまったが、陰謀論者の最大の特徴は、言説のトーンが常に苛立っていて、怒りや不安の感情がにじみ出ていることである。「ワクチンにマイクロチップが仕組まれている」とか、「東日本大震災は人工地震だ」という言説には国民を欺く日本政府への強い怒りが込められている。テレビの報道は演出が入っているという話も、「話半分で聞いておけば良い」というトーンではなく、「騙されている」とか「国民は操られている」という方向に向かう。
「常に」というのも重要だ。普通の人も露骨な不正義に対しては怒ることが多いが、あくまで個別具体的な話だ。一方、陰謀論者は漠然とした怒りや不安といった感情の方が先に来ているため、テーマが変わっても似たような語り口である。むしろ進んでネガティブなテーマを探しに行っているきらいもある。反ワクにハマった人間が、人工地震の話を同じように信じてしまう。そしてそれらを結びつける根拠を探し始め、最後は世界規模の組織(ディープステートやCIAなど)に行き着くのだ。なぜか唯一神やサタンを挙げるものは見たことがない。そちらのほうが包括的だと思うのだが。
理想主義あるいは博愛主義といった観点も欠落していることが多い。外国人排斥を訴える陰謀論者は愛国を主張している割に、「領土を拡大しよう」とか「GDPを二倍にしよう」といった話はしない。彼らは敵からの防衛を主張するばかりで、それ以外の前向きな提案やビジョンには興味がないようなのだ。彼らの荒唐無稽な想像力は脳内お花畑の方向には行かないようである。また、陰謀論者は正義を主張することがあるが、困っている人への同情心や倫理的観点からの提言はない。あくまで彼らの正義は「悪人」を懲らしめることである。
筆者は別にメディアを常に信じろと言う気はないし、北朝鮮による拉致のような真実だった陰謀論もある。だから言動の内容自体を否定するわけではない。ただ、自分が当事者になったわけでもないのに、口調がやたら攻撃的だったり、被害妄想的だったり、見境なく不信を抱いている場合は陰謀論者であることが多い。言い方を変えると、陰謀論よりも陰謀論「者」のほうが本質ということだ。
陰謀論者とはちょっと違うタイプ
一方で陰謀論者とは傾向が違うタイプもある。先述の人種差別なんかも良い例である。
代表格は都市伝説好き、オカルト好きのタイプだろう。一昔前であればUFOとかネッシーの話を面白がっていたタイプだ。この手のタイプは面白半分で信じていて、エンタメの延長である。しばしば陰謀論的な話に飛びつくことはあっても、単なるマニアで終わる。偏執的に自分の主張を繰り返すタイプとは明らかに異なる。
意見がコロコロ変わるタイプは従来は信用できないと考えてきたが、昨今の情勢を考えるとむしろ信用できるタイプなのかもしれない。陰謀論者は自分の世界観に合致した情報しか受け入れず、既に結論を固めていることが多いが、意見がコロコロ変わるタイプはむしろ開かれた心で情報に接しているからである。
憎しみの感情も意外に陰謀論には繋がりにくいのではないかと思う。なぜなら憎しみの多くは日常生活や過去の体験に起因しているからだ。良い方向性ではないが、陰謀論とはやや性質が異なっている気がする。外国人へのヘイトも、憎しみと言うよりは不安が原因ではないかと思っている。憎しみによる民族対立はむしろ多民族混在地域のイメージである。
マスコミを信じないと主張する人間は多いが、その中でも冷笑系は陰謀論者ではない。彼らは物事を信じないということで自分の優位性を示すタイプであり、別に不安や怒りで想像上の脅威と戦っているわけではないのだ。
陰謀論にハマりやすい性格タイプってあるんだろうか
陰謀論の内容を見る限り、第一に浮かぶのはINTPだろう。他にもNT型全般が好きそうなネタが満載である。人工地震とか、思考実験をしてみると、興味深いに違いない。どうやって起こすんだろうか。水爆をプレートに埋め込むとか、色々とアイデアが浮かんでくる。昔読んだ理科の本によると、ツァーリ・ボンバでようやく阪神淡路クラスの地震のエネルギーに匹敵するようだ。ただ、人口地震の場合は地面に基地を設置できると考えると、大型化は簡単だろう。ウラン238を水爆の周囲に大量に配置して誘爆させれば威力は無尽蔵に、、、色々アイデアが膨らんでくる。
ところが、色々見ていると、NT型が陰謀論に特段ハマりやすいという感じはない。これはちょっと不思議である。知人の話を聞く限り、どうにもESTJとかがハマっているケースがあるようだ。
なぜこのような現象が起きるのだろう。考えられるのは、NT型が人生の早い段階で陰謀論的なことに興味を持ち、ある意味で克服しているということだ。筆者も中高くらいにネトウヨ的な話に興味を持ったことがあったのだが、結局すぐに飽きてしまった。受験やら交友関係やら色々と刺激が多かったからだ。新しく入ってくる知識や体験も多かったので、考え方の根本も結構変わったと思う。学生時代は夜通し議論をしたりして、考え方が異なる他者との衝突も経験し、成長したと思う。
一方、ESTJなどは意外に陰謀論に弱いのではないか。ESTJは中高時代は部活一色だったりして、政治・経済などの話を好む人間はほとんど見たことがない。そういった興味関心のないまま、中年以降になって時間が余った時にネットを見ると、陰謀論にハマってしまう可能性が考えられる。特にESTJの場合は真面目で不安性だろうから、余計に不安と怒りを掻き立てられてしまう。追い打ちをかけるのは出向や定年退職だ。こうなると暇な時間が増える上に閉塞感や虚無感を感じやすいし、指摘してくれる人間も少なくなってしまう。仕事人間のESTJは定年退職でバランスを崩す危険性が高く、ハイリスクな群ではないかと思う。
逆に推測でしかないが、INFPは結構ハマりにくいのではないか。INFPは主張の是非よりも相手の意図の方に関心を寄せているケースが多く、ここでいうNF的な感性が優れているのではないか。不安性な人も多いかもしれないが、陰謀論の方向に行くのだろうか。あまりそうは思えない。日頃から余計なことをあまりにも考えすぎているせいで、むしろ陰謀論の単純な世界観にはハマりにくいような気がしている。
まとめ
NT型はしばしば論理を重視するため、相手を論破したり、ファクトチェックを突きつけたりする。しかし、結局のところ陰謀論は反証不能であり、優れた陰謀論の使い手であればそれらの反論を回避する論法などいくらでも思い浮かぶはずだ。理性で考えるだけ無駄である。
むしろ陰謀論を理解する上で重要なのはNF型の感性だ。相手がなぜ相関得るに至ったのかを重視するのである。陰謀論者の特徴はとにかく苛立っているところだ。「こうだったら面白い」という態度ではなく、「自分たちの安全が脅かされている」とか「国民は騙されている」という、攻撃的で被害者意識が強いところが顕著である。「正義中毒」とはいうが、アンパンマンのような博愛主義ではなく、そこに同情や共感はない。脳内お花畑的な理想論すら存在しない。陰謀論者の脳内あるのは怒りと不安である。
中高年の場合は不安や閉塞感を感じやすいし、友達付き合いは疎遠だ。こうなると、陰謀論にハマりやすい土壌が完成する。今でこそ反ワクや人工地震などがメジャーだが、2000年代だったら食の安全や少年犯罪の増加などがやり玉に挙げられていただろう。外国人も必ずやり玉に挙げられるはずだ。だがこれらは全て人間の抱く不安や怒りといった感情に起因していて、その感情を合理化するためにテーマが降りてくるという構造である。だから陰謀論に注目するのではなく、陰謀論「者」に注目すべきなのだ。
情報の氾濫する現代社会において、何が真実化を見極めるのは難しい。ここで重要なのは内容それ自体よりも発信者の態度や評判のほうだ。内容それ自体を見ても真偽は永遠にわからない。しかし、それを発信する人物が不適切な特徴を兼ね備えていれば、主張内容も妥当性が低いと考えることができるだろう。真実がなにかわからない状態で妥当な物を選ぶ方法は発信者の態度やクセに注目することなのだ。