受験の得意科目と人間考察

 学歴ネタから派生して、より踏み込んだ考察をしてみたい。今回取り上げるのは受験における得意教科別のありがちな人間の特徴である。学力が高い人の中にも得意と不得意があり、帰国子女だから英語は得意とか、逆に中高一貫校で落ちこぼれて英語が壊滅的とか、色々ある。得意科目別にありがちなタイプの特徴と受験での強さについて考えてみたい。

 受験科目といっても物理とか日本史とかのレベルで詳しく見るときりがないので、「英数国理社」の五教科とする。ただし、意外に日本の学歴社会では英数国理社の五教科を均等に試すテストというのは多くない。中学受験には英語がなく、大学受験に場合は難関国立であっても二次試験に理社のどちらかがなく、私大文系の場合は数学すら存在しないというケースが多い。高校受験であっても私立高校は英数国のところが多く、公立高校は問題が簡単で差がつきにくいため、事実上五教科がフルスペックで求められる入試は超進学校の高校受験くらいだ。そういった事情はあるのだが、いままでの経験に照らして得意科目とタイプの関係について考えていくことにする。

超バランス型:有利度SSS

 普通の人間には得意不得意があるので、全部の科目をまんべんなくというのはかなり厳しいのだが、全科目を均等に点数が取れれば理論上は一番コスパが良いという計算になる。英数強い型よりも上の存在があるとすれば、このタイプだろう。ただあまりにも理想形すぎるので、タイプというよりは目標と位置づけるべきだろう。

 東大理系の合格最低点は310点辺りであることが多いのだが、例えば英語60点・数学50点・国語30点・理科70点という人がいれば一つも良い科目がなくてもギリギリ合格してしまうことになる。東大理三に合格した時の阿修羅の点数もこんな感じだった。学力を最大効率で発揮してなんとか届いたという感じだろう。

英数強い型:有利度SS

 英語と数学が強いというパターンである。この二教科は特に長期に渡る勉強を要求する激重科目であり、鉄緑会のような中高一貫向けの塾はこの二教科に他の数倍の重心を置いていることが多い。英数はなかなか差が埋まらない科目であり、英数強い型は最も現代の受験において最強のタイプと言えるだろう。しばしば進学校においては理系偏重型が頭が良さそうな扱いを受けるが、本当に強いのはこちらである。

 英数強い型の特徴として挙げられるのは勤勉さと処理能力の高さである。 英語と数学は求められる能力がそこまで一致しない。性質の違う重量科目を得意としている時点で非常に勉強する力が高いと言えるだろう。

 英数強い型の場合は鉄緑会のような完成されたメソッドに乗っているだけというケースも多い。この場合、国語や理社が悪いのは苦手というよりも後回しにしているということになる。したがって英数強い型は受験直前期に一気に残りの科目の成績を伸ばし、高得点を取ってくる。したがって、本番の時点では後述する超バランス型へと進化していることも多い。これが最大の強みである。

 このタイプは受験だけではなく、大学以降もそれなりに優秀な印象を受けた。処理能力と勤勉さを併せ持つタイプは本当に強い。このタイプは弁護士になることが多かった気がする。

英語一芸型:有利度B

 英語だけが飛び抜けてできるというタイプである。主にパターンは2つだ。1つ目は帰国子女である。日本の入試は英語偏重なところがあるので、英語ができる帰国子女は受験で有利だと思われがちである。ただし、この傾向を過大評価してはならない。筆者の周囲を見ても帰国子女だからという理由だけで難関大に合格している人はいなかった。それよりも中学受験で基礎学力がしっかりしているタイプの方が明らかに合格率が高い。帰国子女の東大生も多いが、元から数学も得意だったり、中学受験で難関校に入っているケースも多く、元から家庭環境に恵まれているという要因もある。東大受験で囁かれる帰国子女有利論は、あくまで東大に受かるポテンシャルの人が帰国子女だと10点20点積み増せるという話だと思う。

 一定数英語だけは好きなので折に触れてラジオ講座等を聞いているというタイプもいる。偏見だが一昔前の女子に結構多いイメージである。同時通訳の多くは女性というように、もともと語学が好きで得意な人間は女子が多いのかもしれない。また、別の要因として、英語は語学なのでコツコツとした積み上げを続ければ点数が伸びやすいという点もある。基礎学力はそこまでだが英語だけはなんとかという人もいる。ただしこのタイプは超進学校や東大には稀である。一方、上智大や外語大など特化型の大学には圧倒的に有利だ。英語だけでゴリ押しするタイプは早慶旧帝に壁がある印象である。

 このタイプは東大には少ないし、東大系の進路にも少ないのだが、早慶からキラキラ系の民間企業に進む場合は最強とされる。ただ、筆者としてはやや過大評価されがちな気もする。帰国子女になるタイプは首都圏のエリサラ家庭であることが多く、英語が話せなくても元から有利である。

理系偏重型:有利度S

 こちらは男子に多く見られるタイプである。特に偏差値の高い男子校に多い。数学は得意で物理も数学の延長で得意だが、それ以外の科目は苦手というタイプである。このタイプは典型的な天才型と扱われがちだ。東大理系に存在する頭のいい人たちも多くはこのタイプである。ただ一方で社会を苦手としているケースが多く、特に中学受験の経験者は社会の暗記が嫌だったと感じる者が多い。

 数学は長期に渡る修練だけではなく、生まれ持ったセンスによるものも大きいという点で受験勉強において最大の関門となっている。したがって進学校では薄っすらと数学ができる人間が頭が良いという風潮がある。算数が重きを占める中学受験でもこの傾向は強いようだ。超進学校に合格するような神童の話題も大体が算数絡みであり、中学受験で最も重要とされているようである。

 なお、一応天才とは言ったが、単純に勉強をサボっているタイプも多い。中高一貫校の場合は6年間英語をサボり続けて好きな数学しか勉強しなかったというケースが一定数存在する。超進学校の深海魚の一番多いパターンである。理系偏重型の場合、社会は捨てれば良く、国語は差がつかないので、鬼門になるのは英語である。東大に届かない理系の天才は英語が足を引っ張っていることが大半である。理科一類の場合は多少バランスが悪くても合格可能だが、それにしても一定程度の学力は必要だ。一方、東工大などであれば数理偏重型は圧倒的に有利である。

 理科三類の場合はこのタイプは意外に弱い。理系偏重型は英語が壊滅しない限り大学受験では有利なのだが、理科三類はあまりに難易度が高いため、数学一点突破は不可能だ。理科三類の場合は数学ができるのは当たり前で、意外に文系科目が重要な印象である。英語を80点に乗せることはほぼほぼマストも思える。ここに国語で+10点ほど積めれば一気に合格に近くなる。

 このタイプはメーカーの研究職が多い印象である。天才的なイメージの割に地味と言えば地味かもしれない。理系アカデミアに進むのはこのタイプと思いきや、意外に別のタイプも多い。おそらく学術的な探求は受験的な処理能力をそこまで求められないのだと思う。

数理格差型:有利度A

 数学は得意だが、理科が駄目というパターンである。意外かもしれないが、よく観察すると結構存在することがわかる。このタイプは処理能力に優れているが、学術系に興味がないタイプが多い。また、理科以上に社会の暗記を嫌っていることが多い。そういう意味では理社苦手型と言うべきかもしれない。

 理系入試の場合はかなり物理化学が重いため、このタイプは文転しがちである。(そもそも理科に興味のないタイプが理工系に進んだらキツイだろう)この点、一橋のような大学は数学が得意だとアドバンテージであるため、社会一科目を詰め込めば受かってしまう。勉強をサボった地頭の良いタイプも散見される。慶応経済など数学で稼げる文系学部ではよく見かける。東大文系の場合は社会二科目のハードルが大きすぎるので、文転にしても敷居が高いが、それでもこのタイプは一定数見かける。「数学が得意な文系」で一番多いと思う。

 余談だが、このタイプはビジネスマンとして優秀なことが多い気がする。そういった意味でも経済学部向きである。会計士はこのタイプのイメージがある。

文系偏重型:有利度B

 これまた結構多いタイプである。というより日本人で一番多いような印象を受ける。いわゆる「ガチ文系」である。他の科目はそこそこ得意なのに、数学に関してはセンスが毛頭なく、点数が伸び悩むというケースである。先述の英語突出型と違い、このタイプは英語以外に国語や社会も得意な傾向がある。勉強する能力は高いはずだが、数理的思考力のハンデが足を引っ張っているのである。総じて女子に多い印象であるが、男子にも無視できない数が存在する。憶測でしかないが、岸田首相は多分このタイプではないかと思う。

 数学苦手型は文理選択の時点で文系を志向するため、理科はそもそも選択していないという場合が多い。したがって希望先は文系に限られるだろう。本人の興味や就職の事を考えて理系を選択するという人間もいるかもしれないが、その場合は大学のランクは下がってしまうことは避けられないので、やはり普通は文系を選ぶ事が多いと思う。

 私大文系であれば合格は可能だが、東京一工レベルになってくるとこのタイプの合格はかなり厳しくなってくる。文科一類の場合は英数のどちらかに問題を抱えると受からないのだが、英語苦手型は理系に行くので、文科一類の受験で砕けるタイプは文系偏重型が多い。文科三類の場合は数学の採点が緩いという噂があり、特攻して合格している者もいたが、それでも相応の基礎学力は必要である。

 余談だが、国立大の法学部は数学力が重視されるのに対し、私立大の法学部はむしろ文系偏重型の性質が強い。そういった意味では両者の受験格差は大きいのだが、法学系の進路は数理的な能力をほぼ使わないので、その後の逆転がしやすくなっている。法律系の資格が高倍率なのは数理的な能力を使わないことによって参入障壁が低いことに起因していると思う。したがって東大法学部であっても慶応や中央の法学部に大して優位を保てるとは限らない。国立大の法学部の強さが際立つのは特化型の法律系よりもジェネラリストの公務員系というわけである。

数社得意型:有利度A

 数学と社会が得意科目というタイプである。大学受験の時の筆者はこれであった。この2つの科目の共通点はほとんど存在しないように見えるが、東大文系に限ってはなぜかよく見るタイプである。偏見かもしれないが、オタク・発達障害系の男子が多いような気もする。もともと世界史等のマニアであり、かつ有名進学校出身などで数学に苦手意識が無いというパターンだろうか。一方で長期に渡るコツコツした積み上げが重視される英語は苦手科目とすることが多い。

 東大文系の場合、見かけ以上に数学の配点は大きく、数学が理系並みにできる場合は+20点近くリードできる事が多い。筆者は国語を捨てていたので、数学の点数で国語を穴埋めし、社会で安定して点を稼ぎ、後は英語の強化に邁進していた。おそらくこのタイプは英数強い型に次いで東大文系において有利なのだと思う。筆者の周囲を見るとこのタイプは英語一芸型とは志向と進路が正反対と考えて良い。

英理突破型:有利度A

 英語と理科が得意というパターンである。数学に頭打ちが来ており、これをなんとか他の科目で埋めている状態である。医学部志望の女子に多く見られるパターンである。普通は数学が苦手な人間は文系に行くのだが、医学部の場合は特殊な性質によって理系受験が必要とされるため、なんとか文系科目や暗記が通じやすい化学等でカバーするという戦略になりがちである。

 東大理一と理二に関して大きな違いは存在しないのだが、得意科目の印象異なる。理系偏重型は大体が理一に進んだ一方、理二の場合は英理突破型がも見かける。理系数学の猛者は層が厚いため、それ以外の人間は相対的に数学が下振れするのだと思う。

 意外かもしれないが、東大理三にもこのタイプはいる。数学は高得点が安定しにくいので、理系偏重型(ルシファーなど)は本番に失敗することがあり、英語と理科を固めている方が受かりやすい。ただし数学が「苦手」といっても理三基準なので、理一の平均くらいは必須である。

国語突出型:有利度C

 小学生の時の筆者はこれである。他の科目は大したことがないが、国語だけは得意というケースである。日本の受験においては国語は比較的対策がしにくく、差もつきにくいため、成績上位層であっても国語の成績は大したことがないケースが多い。裏を返せば総合的な学力が不十分な者でも国語はそこそこの成績を取ることは可能である。

 国語突出型は基礎学力が高くないが本を読むのは好きというタイプが多く、学力上位層にはあまりいないタイプである。日本語は誰でも読み書きできるので、比較的参入障壁が弱いという事情もある。また、小説の読解など国語には受験勉強全般に必要な要素とは異なる叙情的な要素が存在することもあり、これが国語の特殊性の原因となっている。国語突出型は総合的な学力がそこまで高くない事がほとんどで、成績上位者には殆ど見られないタイプである。(国語の得意な成績上位者はだいたい英語も得意な傾向があるので、文系偏重型に分類される)

社会突出型:有利度C

 社会だけは得意というケースである。正直、社会はもっとも暗記科目という色彩が濃く、後回しにすべき科目である。したがって社会だけが得意というタイプは科目の優先順位を間違えている可能性が高い。英数と違って社会の一芸で難関大を突破するのはかなり困難である。もちろん得意に越したことはないのだが、他にも得意科目を作っておきたい。

理社得意型:有利度?

 高校受験の時の筆者である。大学受験では見えてこないが、本質的には存在すると思う。これまで挙げたタイプに比べると掴み所がない。どの科目もまんべんなく素養があるが、処理能力と勤勉さで英数強い型に追いつけないため、相対的に理社が浮かび上がるというケースと思われる。高校受験でこのタイプだった人間は最終的に理科一類に進むことが多かった。

 筆者は理科と社会は全国一桁という状態であり、そのアドバンテージで英語と国語の失点を埋めている状態だった。最難関高校受験はかなり理社で差がつくので、筆者はそこまで苦労しなかった。自己採点が正しければ理科と社会は本番でもかなり上位にいたはずである。高校受験と平行して受けた科学五輪でも余裕で予選突破であった。理科と社会を通算すると筆者より良かった者は一人しかいなかった。ただそいつは数学も国語も得意という異常なやつで、某大手塾でも一人だけ異次元の位置に君臨していた。天才っているんだなと感銘を受けた。

 大学受験になると理科と社会のどちらか一方を切らないといけないので、筆者としてはもったいない思いだった。また、長期的にはやはり英数強い型には勝てないという実感もある。このタイプの場合は理科一類や文科一類であれば十分に到達可能だが、理科三類に関しては厳しいと思う。とはいえ理社得意型に限らず、得意科目が複数あるという状態は学力のバランスが取れていることが多いので、予後は良好である。理系の場合は英理突破型か超バランス型になることが多く、文系の場合は数社得意型になることが多い。

まとめ

 今回は受験の得意科目をベースに考察を行った。難関大の進学者はどの科目も点数が高いが、その中でも得意不得意は存在することが多い。

 東大の科類の特徴を「あえて」述べるならどうなるか。文科一類は英数強い型だろう。鉄緑会の出身者が多く、数学に苦手意識があるものは多くない。文科二類の場合は文理選択でなんとなく文系という者も多いが、数学に苦手意識はなく理系学部に興味がないというパターンもいるので、数理格差型だろう。これは一橋にも見られる。文科三類は数学が苦手だがワンチャンという者が結構存在するので文系偏重型だろう。数社得意型はまんべんなく存在する印象である。理科一類の場合は言うまでもなく理数天才型である。日本中の天才を集めていると言っても良い。理科二類の場合は数学が苦手な者も一定数存在するので、英理突破型と言えるだろうか。理科三類はスケールが違うのでなんとも言えないが、理想形を考えるなら超バランス型である。

 とはいえ、東大の場合はバランスが重要なので、得意不得意は無いに越したことはない。東大は文理格差があまり大きくない大学の一つである。理系でも英語ができないと受からないし、文系でも数学ができないと受からない。ただし、強いて言うなら理科一類や理科二類は絶対的な得点率が低いのでバランスが悪いタイプでもまだ受かりやすいと思われる。本当かどうかはわからないが、作家の大宮エリーは数学0点で理科二類に合格したらしい。

 通常文理選択といえば数学が苦手であることが決定要因となるのだが、東大クラスの場合は数学の素養はマストであるため、世間一般ほどの分水嶺にはならない。特に男子にその傾向が強い。意外に文理選択の基準となるのは理社である。前述の通り数理格差型は文系に進むことが多かったし、理系偏重型は中学受験の社会がトラウマになっているケースが多く、文系は絶対にNGという者も多かった。東大文系の知人を見ても、数学に自信を持っている者は多かった一方で、理科に興味がありそうなタイプは少なかった(受験で使っていないので当たり前かもしれないが)。東大理系の知人の場合、世界史等に興味があり、趣味で勉強していた者もいるのだが(山川世界史・日本史は東大生協で結構売れている)、全体としては少数派であろう。

 他にも思考力・知識力・処理力の三要素で考察したりもしたのだが、それらを混ぜると複雑すぎて混乱するので、別の機会に書くかもしれない。

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